時は流れて
さて、時は流れて永禄三年。情勢はいろいろと変わった。
尾張、美濃、三河、遠江、駿河の5カ国が緩やかな連邦制をとるような形でまとまった。交易路を開き、お互いの国境の兵力を引き上げることで砦や警備の維持費を浮かすことができるようになった。
むろん警備兵も農民などに戻し、国力の向上を図っている。それに伴い農業生産力も上がった。それぞれの国の生産力はこの10年ほどで誇張でもなんでもなく倍になったのではないか。
信秀様は5年前に当主の座を吉殿に譲り隠居した。強制的に漢方治療を施したことで、史実より長生きされているどころか、百まで生きるんじゃないかってくらい元気である。
尾張は清須城を本城とし、支城網を改廃した結果、非常にシンプルな統治体制となった。小牧山は終わり全域を見渡すことができる立地ゆえに策源地として用いることにしている。
これまでは小領主が割拠して推理などの利害が対立していたのが、より上位の統治者が全てを取りまとめることで効率的な開発ができるようにした。
これにより、大規模な開発を可能とした。まずは田の大きさを規格化し、曲がりくねっていた畦などを整理した。水路も効率的に配置して正条植え、塩水選別などを広めた。種もみを直接田に撒くのではなく、苗に育てて植える手順も推進した。
尾張で農業の改革を実施して、その結果これまでとは段違いの収穫を得た。これを各国に広め、食料生産を大幅に改善したことによって、流民を取り込んで兵力化に成功。ただしいたずらに兵力を増やしても仕方ないということで、最精鋭の部隊を大名の直属とし、それ以外には支援を行う黒鍬、荷駄、警備と役割を分割し、体系化した。
これにより、これまでは兵として使えなかった者も軍に所属させることができるようになったのである。
尾張で試験的に実施した改革を徐々に広めていく。目に見えて成果の出るものはすぐにでも受け入れられた。それは事前に現地の領主を尾張に招き、その繁栄ぶりを見せたこともある。
身売りされることもなく子供が笑顔で走り回り、腹いっぱい米の飯を食べられる。その情景を見た者のは崩れ落ちて落涙したり、ただ茫然としたりと中々に見事な反響があった。
周辺諸国だが、北伊勢はほぼ織田の勢力圏となった。同時に、信濃南西部は松平の支配下になっている。北伊勢の諸豪族が織田につき始めたころ、佐々木氏の軍が差し向けられたが、鈴鹿峠で迎撃し、これを打ち破った。
野戦築城、弩などの投射兵器の充実で、ほぼこちらの損害は0だ。名のある武者ではなく、雑兵にしかも矢で射抜かれて討死というのは、彼らの価値観からすれば犬死以外の何物でもなく、それは恐怖をさぞやあおったことだろう。ここで多数の兵を失った佐々木氏だったが、さらに、野良田の戦いで離反した浅井氏に敗れたこともあって、勢力は急速に縮小していっている。
美濃と浅井は同盟関係にある。義龍殿の正室は浅井家の出身だからだ。こちらも漢方による治療で持病は治まっている。飛騨を制圧して湯治計画にやたらノリノリだ。
浅井を支援して佐々木に当て、美濃北部の豪族を先鋒に飛騨への圧力を強めて行っている。
南信濃だが、流民による情報流布と、塩の交易で豪族が面白いように寝返ってきた。武田の圧政に耐えかねたということもあるようだ。甲斐の豪族にばらまくために相当な重税を課していたようだからな。降ったとしても、戦の先鋒を強要され、兵力をすり潰される。そこで戦功をあげなければ取り潰しだ。
松平や織田は成り上がりだが、そこに今川という名門の名前がついたことで信濃の諸豪族もこちらに降りやすくなったようだ。
などとやっていると当然武田が乗り出してくる。そして、あえて三河勢を前面に出して迎え撃った。さすがに武田、強かった。しかしこちらも一歩も退かない。戦いそのものは引き分けたが、これによって当家の手勢への名声は大きく高まった。
信濃の南半分を失陥したことで、北信濃への圧力が弱まり、飯山から長尾の兵が南下してくる。これによって武田はせっかく確保していた善光寺平野を失った。
長尾とは当面和睦したが、今川経由で北条とつながっていることをちくりと責められた。問題は甲斐だが、金山意外に旨味というものがない。風土病も多く米もあまりとれないのだ。
単独の勢力としては事実上詰んでいる。というあたりで事件が起きた。高遠城の城代であった太郎義信がこちらに内応したのだ。
これは武田家の存続をかけた策であろうとの意見が多かったが、おそらくそうであろうとも思ったが結局は容れることにした。これで甲斐の北西部もこちらになびきつつある。
というのが今の状況である。さて、ここからどのように戦国の世は動くのか。と言っても現状では勢力が圧倒的過ぎており、機内に侵入していないので大きな動きはないが、それこそ包囲網などを作られかねない状況ではあるのだ。
引き絞った弓弦が溜めた力を解き放つときはいつになるのか。それを探っているのである。
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