Hello, HALOworld!! 〜ペット泥棒を追いかけたら、異世界にきちゃいました〜

笛吹ヒサコ

プロローグ

Hello,World!!

 ――おはようハロー世界ワールド


 たしか、プログラミングかなにかの用語で、わたしには小難しすぎる言葉だったと思う。

 意味なんてよくわからないけど、声に出したらワクワクした言葉だったから――なんて他愛もない理由で決めたラッキーワードだ。それは、いつの間にか落ちこんだりした時の口癖になっていた。


 ――前向きな自分になれますように。ハロー、ワールド


 ――いつまでも落ちこんでないで。ハロー、ワールド


 ――さぁ、顔を上げて。ハロー、ワールド


 ―――――


 ――――


 ―――


 ――


 ―




 スマホのデフォルト設定のアラームで始まる朝。


「ぅーん。もぅ、朝ぁ」


 高校生になったばかりの頃は、灰色に塗りつぶされていた憂鬱なこの世界。

 それが、今では違って見える。


「眼鏡、眼鏡、あったぁ」


 今でも、輝いているわけじゃない。

 結局、文芸部には入らなかった。どの部活にも入らなかった。


 パパとママは、あいかわらず朝が早い。それでも、ママはちゃんと作り置きの朝食を用意してくれている。親って本当にすごい。


「ごちそうさま、っと」


 朝食と身支度だけで忙しい朝は、口うるさい保護者たちがいないほうが、何かとはかどる。最近気がついたことだけど。


 世間はあいかわらず、面白くないニュースばかり。

 何も変わっていない。


 わたしもそう。


 せっかくのゴールデンウィークなのに五月病をこじらせていた頃から、わたしの毎日は変わっていない。

 デフォルト設定のスマホのアラームから始まる毎日は、ありきたりな高校生のタイムスケジュールを繰り返しているだけ。もちろん、嬉しいことも落ちこむこともあるけど、高校生の日常の範囲内におさまる振り幅だ。


 それでも、ありきたりな高校生の日常が、あの頃と違って見えるのは彼らと彼らの世界のおかげだ。


「留守番よろしくねー。いってきまーす」


 玄関の鍵をかけて、ふと見上げた空は、雲一つない青い空。今日も太陽のまばゆい光が燦々さんさんと輝いている。

 こよみの上では秋なのに、まだまだそんなに高くない空。




 もし、過去のわたしに何か一つ伝えられるとしたら――


 あの五月病をこじらせて灰色だった頃のわたしに、初めてラッキーワードが一つ追加されたよと、笑いながら伝えたい。


「ハロー、ハロワールド。今日も一日、ほどほどでいこう」


 闇の暈ダークハロとともに、彼が第10892世界『地球』にやってくる日を、わたしは今日も心待ちにしている。

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