ゴールキーパー

東雲光流

1

あがり症

土壇場に弱い


俺のコンプレックス。



スポーツは好きだ。


けどプレッシャーに弱い…

弱い自分を感じるのが嫌だった。




それでも、“変わりたい”とまるで呪文のように自分に言い聞かせる毎日。



今考えれば笑えるけど、

その時は本当に、自分が何をやっても“ダメな子”みたいで嫌だったんだ。


そんな時、

初めてサッカーというスポーツに出会った。



足だけを使うスポーツなんて…

普段あまり意識しない足をメインに使うなんて、

みんなが同じように

ハンディキャップを抱えるスポーツのように俺には見えた。



もちろん、初めから全部上手くなんかいかない。


目立つプレイヤーにはなかなかなれなかった。


俺は必死に練習した。



子供の遊びでやるサッカーの試合

人気があまりないゴールキーパー


その時はジャンケンかなんかで順番で俺になった。



目の前でみんなが必死にボールを奪い合う。


ゴールキーパーは動ける場所が限られている


仲間がボールを奪われた。



一斉にみんながこっちに向かって走ってくる。


ボールを蹴りながら相手チームの奴らもみんな一斉に…



「ボールこっち!」


「あっちマークしろ!!」



みんなの叫び声が聞こえる


「とめろ!!守れ!!!」



ドクンッと音がしたのがわかった。

心臓が耳まで上がってきたのかと思うような大きな音。



ボールが迫ってくる



「!!!」



みんなが叫ぶ。


緊張した

俺が守らなければ、相手チームに点数が入ってしまう。



「シュートー!!」


相手チームの奴らが大声で叫ぶ。



「取れる。

俺…絶対取れる。」


顔が真っ赤になっていくのがわかるくらい熱い。


けど、ここで負けるわけにはいかない。


自分に…負けるわけにはいかない。



自分に言い聞かせるように呟きながら

相手が蹴ったボールに手を伸ばした。



「スゲェ~!!」

「やった~!!」


叫びが歓声に変わっていた。



「お…俺…止めた…?」



手の中にあるボールを見つめていると



「こっち!!

こっち投げろ!」


と声が聞こえた。



呆然としたまま声のする方を探して

力いっぱいボールを投げた。



帰る時間のチャイムがなって

試合が終わった帰り道。



「お前スゲェーな。

あのボール止めるなんて、スゲェーよ!」



クラスでも人気者

スポーツ万能でサッカーではエース


目立つことが大好き

俺とは正反対の性格


嫌いじゃなかったけど

なんとなく…今まであまり話したことがなかった。



嫉妬…していたのかも。



急に話しかけてきたから

俺はちょっと焦った。



「お前さぁ…今度から“守護神”って呼ぶな!」



「え?」



「ゴールキーパーって最後の砦じゃん?

ぶっちゃけ点数入れるよりさ?

入れられなきゃ勝てるじゃん?

一番重要なのはキーパーだよな。」



アイツはサラッと言った。

俺が衝撃を受けていることも知らないで。


単純?

だけど…


俺はその日からゴールキーパーに積極的に立候補するようになった。


そのうち

キーパーといえば俺だとみんなが自然に思うくらいまで。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る