戦闘シーン練習

有原ハリアー

須王龍野VSシュヴァルツシュヴェーアト・ローゼ・ヴァレンティア(訓練試合前)

「おはよう、シュシュ」

「おはようございますわ、兄卑」

 俺達二人は軽い挨拶を交わし、食堂へ向かう。

 すると後ろから走る音が聞こえてきた。足音を殺しているからだろうか、シュシュは気づいていない。

 その音は俺達の五メートル程後ろに来ると、カツン、カツンという音に変わった。

「おはよう、ヴァイス。暗殺技術でも身に付けたか?」

「おはよう、龍野君、シュシュ。これを渡そうと思ってね。龍野君はこっち、シュシュはこっちよ」

「あいよ」

「ありがとうございます、お姉様!」

 俺の幼馴染にして、魔術師としてのパートナーであるヴァイス――改め、ヴァイスシルト・リリア・ヴァレンティア姫殿下が、俺達に封筒を手渡す。

「用件はそれだけよ。では、朝餐ちょうさん(朝ご飯)と致しましょ」

 食堂に着くや否や、豪勢な食事が俺達を待ち受けていた。


     *


「さて、開けるか」

 朝、ヴァイスから貰った封筒の中身をチェックする。

 そこには、こう書いていた。

「龍野君へ


 三日後に、戦闘訓練を実施します。相手は、当日の訓練時に紹介します。

 ただ、訓練の性質上、龍野君を過酷な状態に追い込むため、昼間からは私の指示通りに動いてもらいます。

 それでは、ごきげんよう。 ヴァイスより」

 俺は盛大に嘆息した。

「やれやれ……何されるんだ?」


     *


 時は経て、三日後。

 俺は朝早くから、ヴァイスに騎士服に着替えさせられていた。

 ご丁寧に、拳銃とショートソードまで身に付けさせられている。

「うふふ、龍野君。薬、宝石、を用いて盛大に魔力を絞られた感想はどうかしら?」

「普段の一割の気力しか感じられないな」

「まあ当然よね。貴方の魔力は、最大容量の一割近くまで減らされたのだから」

「ということは……相手は全盛期の俺に力負けする奴なのか?」

「うふふ。それはどうかしらね」

 ヴァイスは笑うのみだ。だが、相手の正体がわからなくとも、どの程度の実力かを類推することくらいは出来る。

 俺の魔力が一割になって、ようやく互角になる相手――それは思い立つだけでも、片手で数えられる人数しかいない。

「案内するわ。地下訓練場で”相手”が待ってるわよ」

 ヴァイスに連れられ、地下訓練場内部に案内される。

 そこには――

「シュシュ!?」

「兄卑!?」

 シュシュがいた。


「うふふ。龍野君、貴方の”相手”はシュシュよ」


「そういうことかよ!」

「それに、貴方の魔力を一割まで減らした理由、教えるわね」

「何だ?」

「貴方には、魔術の使用を控えて戦ってもらいたいからよ。それが今回の訓練の趣旨ですもの。ねえ、シュシュ?」

「その通りですわ、お姉様」

「シュシュお前、何で話が通じてんだよ!?」

「それは勿論……手紙に全て書いてあったからですわ。そうですわよね、お姉様?」

「なっ!? ヴァイスお前、一体……」

「うふふ、うふふふふふふ……鈍いわねぇ龍野君。どうして二通の手紙を、か、わからないのかしら? うふふふふ……」

「お姉様が笑い上戸に入られたから私が説明するわ、兄卑。要は『私と兄卑の手紙の内容が、それぞれ違っていた』ということよ。おわかりかしら? ほら、こちらに手紙もあるわよ」

 シュシュが龍野の前まで歩み寄り、手紙を渡す。

 その中身に驚愕した。

「なっ……試合条件とかその他諸々、かなり細かくセッティングされてるじゃねえか!」

 すると、パンパンと破裂音が鳴り響く。振り向くと、ヴァイスが手を叩いていた。

「うふふ、二人とも。前口上はそれまでよ。これから、訓練の説明をするから」

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