第5話

「へえ、お兄さんじゃなくて使用人さんなんですね、廿六木とどろきさんって!」


「ええ、まあ。基本的には五反田お嬢さまの召使いとして雇っていただいておりますが、先ほども言ったように、この家のお庭も管理させていただいております」


「よほど信頼されているんですね! きっと仕事が丁寧なんだろうなあ。庭も綺麗だったし!」


「それくらいしかやることがないので、自然とそうなるんですよ。ゆきお嬢さまのお世話もお嬢さまがしっかりしているので、することも特にありませんしね」


 まだ屋敷のなかにも入っていないというのに、なつは使用人の廿六木さんと仲良く話し込んでいる。その様子をビニール袋を両手で持ちながら眺める僕ら男子。


「いやあ、それにしても広いですねっ。迷っちゃったりしないんですか?」


「いまでこそさすがに問題ないのですが、お恥ずかしながら、雇われた最初の二週間ほどはどこに何があるのかも分からず、使用人もわたくししか居ないので誰かに聞く訳にもいかず、といったところでした」


「ひとりで、しかも場所を憶えながら、こんなに広い家を歩き回るのって、けっこう大変そうですね……」


 なつと廿六木さんは初々しいカップルみたいな会話をしている。会話の間の沈黙にすら恋をしている感じが漂っていて、息をするのがすごく躊躇われる。


「さて、こちらが屋敷になります。わたくしがゆきお嬢さまのお部屋まで案内しますので、ついてきてください」


「先から見えていたけど、ものすごく気品のある屋敷ですね。素直に羨ましいです」


 遠くから眺めていたときよりも、当たり前に大きくて荘厳な雰囲気が強く、僕のあらゆる行動を慎重にさせる奇妙な緊張感があった。

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