第3話

「おや。五反田家になにかご用ですか?」


 三人でひたすらあたふたしていると、背後から落ち着いた声が聞こえてきた。振り返ると、タキシード姿の男性が両手に物がいっぱい入ったビニール袋を提げて立っていた。関係者の方だろうか。


「あの、ええと……五、ゆきさんのクラスメイトの三沢です。今日はあの、ゆきさんにプリントを届けに、参りました所存でございまする」


 三人の代表としてなつが挨拶をしたが、あまりの緊張ぶりに口調がだいぶおかしくなってしまっている。普段から調子のいいなつだが、こうやって下手に出ているところを見ると、ちょっとだけ気持ちが晴れる。自分でも性格は良くないと思う。


「ああ、ゆきお嬢さまのご学友の方々でしたか。でしたら、どうぞ。いま扉を開けますね」


 ――ゆきお嬢さま。


 ということはやはり、五反田ゆきは名家の令嬢だろうか。タキシード姿の使用人が居る極道なんて聞いたことがない。身近にそういう人が居ないからかもしれないけど、現時点でここが極道だという可能性は捨てたほうが良さそうだ。


「あ、荷物持ちますよ。それ、五反田さんへのお見舞いの品でしょう?」


「ありがとうございます、とても助かります」


 賢一と僕で分担をして袋を持つ。意外と重たい。あまりじろじろ見るのもどうかと思ったが、ゼリーやお粥など、意外と庶民的なものを買っているようだ。とりあえず、僕たちがあり合わせのお金で買ったお見舞いの品が霞まなくて良かった。

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