第29話 アリスが助けたいもの

「助けたい子、ですか?」

「はい。実は私、庭で花を育てているのです。ある時鳥から運ばれてきたのか、いつの間にか見覚えのない植物が芽吹いていたのです。」

「話の流れからその植物と言うのは魔物ですか?」

「……はい。生えてきたのはドリアード。芽を出し姿を現したのはいいのですが、土が合わないのか元気がないのです。」


 ドリアードは、人の姿を模した植物型の魔物であり、その繁殖方法は自身が生み出した実を種ごと鳥に食べてもらい糞と一緒に排泄されることで発芽されるようになっている。

 ただ、ドリアードも魔癒草までとはいかないが、土の好き嫌いが分かれる種族だ。運悪く好みではない土に植えられようものなら即枯れてしまうことも珍しくない。アリスの庭で発芽したドリアードも今はまだ何とか耐えてはいるものの、枯れるのも時間の問題だろうというところだ。


「構いませんよ?どうせ、スライムもこちらに招くのですからドリアードの一株や二株問題ではありません。……単位って株であってますか?」

「あ、どちらでも構いません。じゃなくて!引き取っていただけるのですか!?ありがとうございます!」

「いえいえ、ハッキリ言ってここの土と合うかどうかも分かりませんが、やってみましょう。……ですが、どうやってお運びになるつもりですか?」


 その言葉に、アリスは口に手を当て、固まってしまった。

 行動から察するに、考えていなかったといったところだろう。


「それなんだがアマギキ殿、転移魔方陣をここに設置させていただいてもよろしいだろうか?」

「へぇ、そんなものがあるんですか?」

「あぁ、私の研究の産物でね。これさえあれば転移魔法を使えない者でも気軽に転移できる優れものだ。ま、相応の魔力がなければそもそも動かせられないが。」


 リディリが持参していた自身の鞄から取り出したのは複雑な模様が描かれた一枚の布でその模様は明らかに"魔法陣"している模様で天樹姫は秘かに感動していた。


「それは素晴らしいですね。……私は構いませんが、そちらの魔王様は?」

「うん?僕も設置させてくれれば嬉しいが、そこはアマギキさんが決めてくれ。僕からあなたに命令なんて出来そうもないからね。」

「なら構いませんよ、条件があります。」


 天樹姫が出した条件とは以下の通りだ。

1、転移魔方陣を使えるのは、ここにいる魔王一行のみ。

2、天樹姫が神社に不在の時は転移できないようにする。

3、他のノイハルトの者に転移先を教えない。


「うーん、この位ですかね。あ、神社があるというのは教えても構いませんよ?あくまでその転移魔方陣の繋がっている先が神社と教えなければ構いません。」

「あれ?教えていいのかな?」

「えぇ、悪意持つ者以外でしたら来るもの拒まずですから。そもそもたどり着けるかはわかりませんが。」


 グライアとマハータの普段より戦闘慣れしている2人は言葉を発さずただ頷いた。もちろん、ジークルト並びアリスもリディリもこの森に生息している魔物は何とかなるが、それ以外となれば大いに苦戦するだろう。魔物除けの魔法あるいは道具があればまた別だろうが。


「よし!そうと決まれば早速魔法陣を仕掛けさせてもらうぞ!アマギキ殿、敷地の一部をお借りしても!?」

「えぇ、どうぞ?」

「わ、私も!」


 天樹姫の同意を得たことでリディリは残っていた茶をグイっと飲み干すと転移魔方陣をもってさっさと外に飛び出し、アリスもそれに続いた。

 普段の彼女の行動ぶりを見ているグライアは、変なことをしでかさないよう監視するためジークルトと天樹姫に断りを入れリディリを追って外へ向かった。


「そうだ、ジークルトさん。ノイハルトの範囲で構わないんですが、この森で一番強いと言われるのはどんな魔物なんですか?」

「こちらで確認できた中で一番強力なのは水龍だね。……まぁ彼の龍は理知的な存在だから害さない限り襲ってはこないから安心していいよ。」

「あ、あの龍さんなんですね。」

「え、知り合い?」

「この前釣りました。」

「……ごめん、もう一回言ってもらえるかな?」

「釣りました。蒲焼にしたかったんですけどね……」


 ジークルトの言った通り、天樹姫が以前釣り上げた水龍は、その存在のために各国が盟約を結んだほどだ。先に言った資源の独占を防ぐというのもあるが、隠れた理由は水龍だ。怒らせればその大いなる力で暴れられるだけではなく四六時中止まない雨を降らされると言われているからだ。もしその怒りが一つの国のみならず世界そのものに向けられれば、世界が崩壊するとまで伝えられている。

 そんな存在を目の前の何でもなさそうな女性は、蒲焼にしたかったなどと言ってのけた。いや、ジークルトは蒲焼知らないが。


「アマギキさんは……水龍を殺せると?」

「あぁ、確かに最初は蒲焼にしたいなーとは思いましたけど殺す気はありませんよ?お友達ですし?」


 明言こそしないが、つまりは殺せるというところだろう。……ジークルトは絶対に邪な考えを持つものをこの地に近づけてはならないと決意した。そんなことがあれば最悪ノイハルトが滅ぼされかねない。それも水龍よりも徹底的に。


「……ですから、ジークルトさん。都合のいい悪さばかりする龍とかいません?」

「い、いやぁ知らないなぁ」

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