第21話 ご一行

 グライアに魔癒草を譲ってから1週間ほどたった頃……お昼の酒盛りを楽しんでいた天樹姫の脳裏に電流が走った。――と言っても重要なことではなく、この神社向かっている気配を複数感じたのだが。

 その気配の数は5つ。4つの気配に関しては知らないが、1つだけは知っている。グライアのそれだ。


「確か何時か礼に訪れるとか言ってましたけど思った以上に早いですね。律儀な人です。」


 だとしてもグライア1人ではなく複数人とはどういうことだろうかと思った天樹姫は、千里眼を発動し参道を歩いている人物たちに目を向けた。

 この前と同様の服装をしているグライアを除くと他は女3人に男1人。天樹姫自身いえたことないが、その誰もが特徴的な格好をしていた。

 先頭に立って進んでいるグライアとは逆に一番後ろに位置を取り、しきりに背後を気にしている、背丈ほどの大きな斧を背負った赤い鎧の女性。


「かの有名な気の強そうな女騎士……この世界には実在しているんですね。」


 そんな天樹姫のへんてこな独り言は誰の耳にも届くことはなく、風に連れ去られていく。……閑話休題。続いてグライアの後ろについて歩く女性……いや、周りと比べて一際背の低い彼女はどちらかというと童女だ。顔も相応に可愛らしいが、身に着けているものが、その見た目とは釣り合っていない。何せ白衣で眼鏡だ。


「属性過多過ぎません?」


 天樹姫的にはお腹いっぱいだが、まだ2人はいる。

 と言っても、残りの2人は、他3人……1人は黒ずくめ。1人は赤鎧女騎士。ラストは眼鏡白衣童女と来て更なる奇抜という訳ではなく、女性のほうは黒を基調としたドレス。いや、街の……貴族など上級の者が住んでいる場所であればまだ普通かもしれないが、森に来る格好で言えばドレス程合っていないものはないのでは。結局ドレスの女性も色物認定された。

 最後の男だが……何というか、ひょろい。顔は整っているが、お世辞にも強そうには見えない。能力的な意味でも個性的な意味でも。


「でも、明らかにグライアさんと女騎士は護衛ですよね。となると、結構の要人だったりするんでしょうかね。うん?……あぁ、なるほど。さて、出迎えますかね。アコ、ウスケ。あなた達はステンバイですよ?」


「バウ!」「ワウ!」



「全く驚いた。グライアの夢幻ゆめまぼろしではなかったんだな。」

「おいおい……実を言うと俺も夢ではないかとこの道にたどり着くまで気が気じゃなかったぞ。」


 白衣童女もといリディリは、興味深げに足元の参道を睨みつけながら前を進むグライアに声を掛けた。

 今回、彼女らが慕う魔王の病を救うために貴重な魔癒草を提供してくれたアマギキなる女性に礼を述べるためにこの森に訪れたのだ。リディリの持つ魔癒草は1本。それでは病を一時的に抑えることはできても治すことはできなかった。しかし、グライアが持って帰ってきた魔癒草をふんだんに使ったことで、完治したのだ。


「ただな?お前が魔癒草を持って帰ってきたのは事実。事実だが、私にはどーしても、群生していたってのが信じられないんだ。」

「俺は嘘は言わん。」

「だからこそ、この目で確かめるために同行を願い出たんだろう?本当に群生していたっていうならば、いい研究材料になりそうだ。」

「……頼むから礼を失するな。」

「分かっているさ。」


 口ではそう言いながらも、その目には科学者特有の研究材料を求める目をしていた。直接見たわけではないが、リディリとの付き合いが長いグライアは、相変わらずな同僚の言葉に分かりやすくため息をついた。


「あ、あの!おかしくないですか?この道に立ってから魔物の気配を感じないんですけど?」


 赤鎧女騎士、名前はマハータ。彼女は後方警戒のため、一番後ろにいた。が、参道に乗るや否や、周囲から感じていた魔物の視線が一気に消え失せた。その異常な状況故、後ろを気にしていたのだ。

 彼女のその疑問に答えたのはリディリだ。


「確かに、マハータの意見は正しい。恐らくだが、この道には魔物除けの魔術でもかけられているのだろう。もしくは、同効果の匂いを発しているか。」

「だろうって……分からないんですか!?」

「分からん!ふふ、面白いな……これから行くところは調べがいのあるものがいっぱいあるんだろうなぁ!」


 楽しげに笑うリディリとは対照的に、マハータは、涙目になりながら、訴えた。


「いやいや!リディリ女史でも分からないなんて私は得体知らなさ過ぎて怖いですよ!仕事はこなしますけど!」

「ならば仕事をこなすことに専念して余計なことを考えるな。お前はどうして戦闘以外はそう繊細なんだ。」

「グライア隊長は気にしなさすぎです!」


 前を後ろでやんややんやと騒がしいなか、真ん中を歩く男女2人は慣れているのだろうか、とても平然としていた。ドレスの女性はニコニコと笑いながら鼻歌まで歌っている。まるで遊園地にでも来たようにテンションが上がっているようだ。


「楽しそうだね、アリス?」

「はいお兄様!リディリほどじゃないですけど、私、この先が楽しみです!」

「そう?ならアリスも連れてきて正解だったかな。」


 妹であるアリスの楽しそうな笑顔に、兄のほうも釣られて笑みがこぼれる。

 そして、ついに見えてきた。天女が住まう神社が。

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