第105話
バートを支える肩が熱い。火傷をする手前ほどに彼の鎧は熱をもっている。私は大丈夫だがノティヴァンは大丈夫だろうか?
心配げにノティヴァンの方を向くと、俺は大丈夫とばかりに彼はにかっと私に笑顔を向けた。
ノティヴァン達にあてがわれた部屋に着くとすぐさま、私とノティヴァンはベットに仰向けにバートを寝かせた。
バートの背がベットに着くのと同時にバカッと魚を開くようにつま先を起点にバートの白銀の鎧が上下に分かれる。それと同時に視界を覆うほど濃い湯気が部屋に立ち込める。徐々に湯気が薄れていくと鎧の中が少しずつあらわになってきた。薄靄の中見えたのは淡い緑色の髪のどことなくパナに面差しの似た少女の顔。
顔に見とれている間にも靄は薄くなっていき、少女の全身があらわになっていく。薄っすら胸元の肌色が見えた所で私は慌てて背を向けた。
これは男の私では手に負えない。そう思い、ラミナに助けを求めようと扉に手をかけると扉は一人でに開き、ラミナと一緒にいたキキとソアレが姿を現した。
「バートさんの容体はどう?」
自身も母親のことで気が気でないだろうに、ラミナはバートのことを心配してくれていた。
『詳しいことは私も分からないが、ラミナとキキに手伝ってほしい』
「どういうこと?」
ラミナが疑問符を浮かべるのも無理もない。正直、私も現状をつけみかねている。
『兎に角、二人は中に。ソアレは私と外で待っていうよう』
言って私はラミナとキキを部屋に通すと外に出て扉を閉めた。
「父さんどういうことなの?」
納得いかないと不満顔のソアレに問われてもソアレを納得させる答えを私は持っていない。
『ノティヴァンが出てきたら説明してもらおう。正直、……私もよくわからないんだ』
「……うん、そういうことなら分かった」
不承不承ながらソアレは納得して頷いてくれた。
はっきりと何を言っているかは聞き取れなかったが、ラミナとノティヴァンの話し声が十数
話し声が止まると部屋から少しばかり疲れた顔のノティヴァンが出てくると開口一番
「バートはもう大丈夫だ」
と安堵の笑みを浮かべた。それを聞いて私とソアレの顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「ここで説明するのもなんだ。部屋に行こうか」
ノティヴァンに促され、私達はあてがわれた客室へと向かった。
私達にあてがわれた部屋は正面に中庭が望める大きめの窓が設置され、左手には大人2人が優に眠れる大きなベットが2つ並ぶ。右手にはローテーブルと3人掛けのソファアが一脚、その脇には保存の石箱が置いてあった。
中に入ると私とソアレはベットに腰を下ろし、ノティヴァンは保存の石箱から水差しを出すと、グラスに注ぎ一気に飲み干ほす。空いたグラスと水差しをローテーブルに置くとノティヴァンは私達と向き合うようにソファアに腰を下ろした。
「さて、どこから話したもんかな……」
暫く思案した後、ノティヴァンはバートと出会った幼い日のことを語り始めた。
「あれはまだ、俺が5,6歳のことだったかな。
元々、風の国の勇者は風の精霊達に愛されているんだ。それで、精霊たちが住むところに勇者が訪れたのなら彼らは喜んで会いに来てくれる。森なんかに入ると下位の小精霊はすぐに俺やじいちゃんの周りを楽し気に飛び回るんだ。
その日、俺はじいちゃんと一緒にに王都付近の森に異常がないか探索していた。じいちゃんにとっては何気ない日常業務でも幼い俺にはそれは冒険がいっぱいだった。
俺はそれはもう、子ネズミみたいにウロチョロと走り回ってじいちゃんに苦笑いを浮べさせてた。そんな俺達をちょっと離れた所からつかず離れずの距離で見てた女の子がいたんだ。
結構、初めの方から付けられてるのはじいちゃんは分かってたし、俺も途中から気づいてた。ちょっと脅かすくらいのつもりだったんだ。付けてた女の子の背後にこっそり回って大声で声をかけたら、その子泣き出しちゃったんだ。で、泣き出した子っていうのがバートいやフィーネか。これがあいつと俺との初めての出会いだった」
ここまで話して一息つくとノティヴァンはローテーブルの上に置いた空のグラスに水を注ぎ入れると口に運んだ。分かったのはノティヴァンとバートいや、フィーネという少女が幼馴染だということ。
喉を潤すとノテイヴァンはまた話し始めた。
「泣きじゃくるあいつをじいちゃんと家まで送りに行ったときは驚いたさ。あいつの親、人族嫌いでなかなか会えない風と森と共に生きるって言われている希少種族の
ケラケラ笑うノティヴァンを見ながら私はフィーネにパナの面影を見たのはそのせいだったのかと一人納得していた。
基本、精霊には性別はない。それでも例外はある。真に愛し合い番となることを望めば男女どちらかの性を得て子をなすことも可能と言われている。この逸話は年頃の少年少女は特に憧れを持っているようで、うっとりと憧れの眼差しでデイジーが語ってくれたものだ。
そして話は続く。
「まあ、なんだ。勇者って何気に対等な友達っていないんだよ。だいたいの人族は勇者は尊敬や憧れの存在で友達になるなんてもってのほかって、誰も俺に寄り添ってはくれない。
これは子供心に結構きつかったなぁ。友達だと思ってたのが、翌日にはもう一緒に遊べないとか言われるんだからさ。
そんな中でも人族じゃないフィーネはちゃんと友達でいてくれたんだ。アステル、君と同じにね」
不意にノティヴァンに笑いかけられ、どういう顔をすれば良いのか焦る私を隣に座るソアレは穏やかな微笑みを浮かべながら優しい眼差しを私に向けた。
焦る私を楽しそうに見ながらノティヴァンは話しを再開した。
「そんなこんなで、俺とフィーネは友人だったわけなんだが、とうとう、俺が勇者を継いで旅立つことが決まったんだ。勇者は自由に旅の共を選べるわけなんだが、それがまあ、面倒なんだ。
ただ、憧れてるだけは可愛いもんで、勇者に取り入ったり、利用したりしようとする輩も多数いる。そういう輩が面倒でじいちゃんはずっと一人だったんだ。
俺もじいちゃんの考えには同意で一人で旅立つつもりでいたら旅立つ当日、フィーネがあの格好で俺の家の前に立ってたんだ。そりゃもう驚いたさ」
確かに可憐な風の大精霊のような少女が巨漢の白銀鎧の姿で玄関前に立っていたら驚くだろう。何より、何故その姿で現れたかの方が気になる。
『勿論、訳は聞いたんだろう?』
「聞いたさ。そしたらなんて答えたと思う?」
全く想像がつかない私は早々に降参し、『分からない』と首を横に振った。
「「私は弱いから、ノティの隣にいるには自分の身くらい守れないといけないと思っったから」ってどっからか魔導鎧を見つけてきて着てきたんだと。
まったく、迷惑かけないように思ってくれるのはいじらしいけど、フィーネ一人くらい守り通して戦えないと思われてたのはちょっとだけショックだったけどな」
苦笑いを浮べるノティヴァンの気持ちは男として分からなくもない。ただ、フィーネの迷惑をかけたくない気持ちも分からなくもなかった。
「やっと、分かりました。今回のことはフィーネさんの魔導鎧の不調から起きたことだったんですね」
じっと話を聞いていたソアレが一連の流れをまとめるとノティヴァンは「そういうことだ」と疲れたような笑みを浮かべた後
「気づいてやれなかった、俺が悪いんだけどな」
と俯き手に持つ空いたグラスに視線を落とした。
『誰だって気づかないこともありますよ』
「魔導鎧の改良なら僕も手伝いますから」
私とソアレなりの励ましの言葉をかけると、ノティヴァンは顔顔を上げ「ありがとう」と微笑んだ。
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