第103話

 子供たちは駆鳥テレチプリと戯れ、ノティヴァン達が旅の話をしている間に概ね時間通りに幌鳥車は王都へ到着した。


 王都に入るための入口に設けられた関所の前には多くの幌鳥車が長蛇の列をなしている。これは王都に入れるのは昼ぐらいだろうな。

 予想通り、関所を通過したのは頭上の太陽が頂点に達した頃だった。世話になった女性御者はノティヴァンに、いつの間にか懐いた駆鳥テレチプリ達は子供たちに名残惜しそうな視線を向けながら別れを告げた。


 町に入ってまず目についたのは王宮から町の四方に引かれていると言われる巨大な水路。その広さは小船一艘くらいなら互いに行きかうことが余裕で出来る。各終着点には家一軒丸ごと収められるほどの大きな円形の池が作られている。その一つが私達の眼前にあった。

 水路の水は円形の池で止まり、池の中心には水を浄化するための石像型の魔導具が設置されている。石像の傍に掘られいる溝はおそらく地下用水路につながっていて、流れ落ちた水は王城に向かって戻されているのだろう。


 次に目につくのが開け放たれた大きな窓に白いレンガで組まれた階層の低い家々。高いものでも3階まであるものはほとんどなく、多くの平屋が立ち並んでいる。大きな窓には薄手の鮮やかな色のカーテンが掛けられ白い街並みに色どりを与えていた。地の国では雪の重さから低い家が多かったが、ここでは何が理由なのだろう?


『平屋が多いけど何故なんだ?』


 私の疑問に答えてくれたのはラミナだった。


「暖かい空気は上に上がっていくの。だから、高い階層になるほど熱くなるのよ。逆に冷たい空気は下にに降りてくる来るから涼しく過ごすにはこの形が良いのよ」


『そうなのか』


 頷きあたりを見ると水路の近くには等間隔で箱型の風を吹かせる魔道具が家々に向かって水路で冷やされた涼やかな風を送っていた。


 街並みを眺めていると王城の方から白い豪華な装飾のされた小型でありながら立派な小船が私達の方に寄ってきた。

 丸池で船は止まると船の中央にある、朱色に銀の刺繍の施された美しい布製の小屋から布を押し上げ一人の褐色の肌に銀髪の男性が姿を現した。

 頭は風通しのようさそうな麻布で幾重にも撒かれた帽子のようなものをかぶり、身に纏うのもごく簡素な白地の貫頭衣仕立ての足首まであるワンピースのようなもの。

 少しばかり視線を巡らせれば遠目からこちらを伺う人々も似たような服装をしている。どうやらこれが火の国の人々の標準的な服装のようだ。

 船から現れた男性はノティヴァンに向かって恭しく一礼すると口を開いた。


「お待ちしておりました、勇者様。陛下がお待ちです」


 言うと男性は招き入れるように片手で朱色の布を大きく持ち上げると空いた手でノティヴァンに船の中に入るように促した。


「分かった」


 小さく頷くとノティヴァンはバートを伴って乗り込む。戸惑いがちに乗り込む私達に男性は微笑み「どうぞ、お乗りください」と促した。


 ん?首筋に何とも言い難い違和感を感じる。これは視線?咄嗟に振り返るもそこに人影はなかった。

 首を捻る私に褐色の男性は「何か?」と短く尋ねる。それに『何でもない』と私が答えると船の布が下ろされ、小船はゆるゆると王城に向かって進み始めた。

 あの視線は一体なんだたのだろう?


城壁を囲うように水路は引かれ、数艇の小船が王城を中心に王都の四方を行き来し、都市の物資の流通を担っている。

水門の前まで来ると私達の乗る小船は一度止まった。王都に入るには城壁にはめ込まれた格子状の水門を通らなければならない。


「少しお待ちください」


そう言うと案内人の男性は布製の小屋から出ると小船の先端に立ち、格子状の水門の人の手が届くところに設置された魔法陣の描かれた石板に手を当てた。


「門よ開け」


言葉と共に石板に翳した男性の手が魔法陣に魔力を送っているのか淡く紫色に光る。暫くすると、ガチャリと鍵の開く音と共に水門が上方向に上がり開き、小船は水門をくぐると眩しい光に包まれた。

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