第52話

純白の見るからに上質な紙に金で水の国の紋章の箔押しのされた封筒を前に私とラミナは頭を抱えていた。


『どこかの貴族のお嬢様だとは思っていたけど…』


「まさかのお姫様だったとはね」


『お姫様のプレゼントって何を贈ったら良いんだ?』


元々ない過去の記憶を掘り起こしても私にはお姫様の誕生日会に招待された記憶はない。困り果てる私の隣でラミナは何かを思い出しているような遠い目をしながらポツリと呟いた。


「魔晶華のネックレスは良かったわね…」


『魔晶華?』


「魔石の一種で六枚の花弁を持った華のような形をしたものよ。魔石鉱山の特に魔力の濃いところで咲くといわれてる珍しいものね」


『かなり珍しいものならプレゼントに適するかも?』


私が目を輝かせていると、ラミナはにっこりと微笑み頷いた。


「良いんじゃないかしら。アクセサリーに加工したほうが良いから、アステルは魔晶華を摘んできて。私は町で加工出来そうな人を探してくるわ」


『了解した。加工の方は頼んだよ。魔晶華の咲いているところは鉱山ゴブリン達に聞けば分かるかな?』


「村長、あたりなら知ってるんじゃないかしら」


『まずは村長に会うところからだな』


「そうね、気をつけていってらっしゃい」


身支度を始めた私にラミナは微笑み小さく手を振った。




日の出と共に家を出、魔石鉱山に着いたのは日が昇り始めて間もない頃だった。

鉱山について始めに目に付いたのは戦士とは違った逞しさを持つ鉱山ゴブリン達が忙しなくトロッコに乗り込んでいくところだった。


私が村に入っていこうとすると鉱夫ゴブリンに声をかけられた。


「久しぶりだな鎧の兄ちゃん」


『お久しぶりです。今日も精がでますね』


私が笑うような声で返すと鉱夫はからかうような口調で尋ねてきた。


「兄ちゃんは今日もお使いか?」


『いえ、今日は魔晶華を探しに着たんです』


「魔晶華かあ…」


腕を組み鉱夫ゴブリンは暫くうーんとうなっていた。


『この鉱山にはないんですか?』


不安になって尋ねてみれば「いや、あるにはあるんだけどな」という回答。何が問題なのだろうと鉱夫ゴブリンの言葉を待っていると


「昔、たまたま見つけた奴がいたんだが、そいつが行った先は侵入禁止区域でな、身の安全は保障できないところなんだわ。それでも行くのか?」


鉱夫ゴブリンの目は本当に行くつもりなのかと私に問いかける。


『希少なものが危険を冒さず手に入るほうが可笑しな話ですよ』


「まあ、そうなんだがな」


ゴブリンが言葉を濁すのも私の身を案じてくれているからだろう。安心すれば彼も魔晶華の咲いている場所を教えてくれるかもしれない。


『見ての通り、私は頑丈さには自信があるんです。それに、簡単には死にませんよ』


私のつま先から頭へと視線を向けながら鉱夫ゴブリンは苦笑いする。


「まあ、たしかに丈夫そうではあるな」


『じゃあ、教えてくれるんですね』


喰い気味に鉱夫ゴブリンに身体を寄せると、うっとうしげにあしらわれた。


「あっちの鎖で塞がれてる坑道があるだろ。あの先にあったんだよ」


鉱夫ゴブリンの指差す先には確かに鎖でふさがれた坑道があった。『ありがとうございます』と礼を言い、坑道に駆けて行く私の背中に鉱夫ゴブリンが声をかける。


「ちゃんと鈴は持って着てるんだろうな」


『勿論』


声に応え、首にかけていた導きの鈴を左手で持ち上げると


「良し!行ってこい」


鉱夫ゴブリンの声援に見送られ、私は坑道探索を開始した。


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