2ページ

「どうしてです? 今後の参考に教えてもらってもいいですか?」

「えー? マスターに必要かなぁ?」

「聞きたいです」

 だって近藤さんはいつだって楽しそうだもの。

 じっと彼女を見ると、ふふふ、と目を細めて微笑んでから口を開いた。

「でも、特別なことなんて何もないんですよ。ただ、OL時代の毎日と、今の日々は全然違うから」

「全然違いますか」

「もう全く。朝起きた時から違うし、夜寝る時まで違うんです。時間の速度とか、密度とかも全然。今はとても短くて、朝起きるのも楽しいし、眠る時も何も考えずにベッドへ入ることが出来るんです。満足してるって言うのかな、充実してるって言うのかな、何かそんな感じがして、毎日楽しいんです」

 そう続けて、にっと笑う彼女がとても幸せそうに見えるのは、多分とても素直だから。心が感じたものをそのまま顔や身体で表現出来たり、行動出来たりする人だから。

「だからOL辞めて良かったなぁって」

 転職を決めた時は、いろんな出来事が重なって今行動しないといけないって思ったからだそう。本人的には神のお告げらしい。

転勤の話が出た時に趣味で作っていたアクセサリーがとある人物の目に留まったのをきっかけに、瞬く間に近藤さんの作品が広がったのだとか。

もちろん、転職に踏み切った時はかなり勇気がいったらしいのだが、今の彼女からはあまり想像できない。

「大好きなことを仕事にしているからこそ辛い時もあるけど、楽しいことの方が多いんだよねぇ。ね、マスターも分かるでしょう?」

 そう屈託なく笑う顔に、彼女が少しも嘘を吐いていないことが良く分かる。それがすこし羨ましくも感じる。

「はい。大好きを仕事に出来ている私たちは、とても贅沢なのかもしれませんね」

 ましてやそれで生活が出来ているのだから。

「ふふ、そうですね。とても贅沢です。だからこそ、私たちだけは私たちの仕事を裏切ってはいけませんね」

 するりと言ったのは素直にそう思っているからなのだろう、なんて。あぁこの人には多分一生敵わないだろうなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る