第5話仲間との通信

 『はい、こちらアルビオン専属ドールメカニカルラボ、セラ局長です。現在ドールの販売はお断りしてますよ~。あ、デートのお誘いですか。すいません、私子供いるんでそういうのは……ちょっと遠慮しかねるというかぁ』


 通信に出るやいなや、冗談をとばしてきた相手。セラと名乗った、自らの赤髪を髪留めシュシュでサイドテールにまとめたツナギ姿の女性。左目の下にある泣き黒子ぼくろがチャームポイントのアルビオンお抱えの専属メカニックだ。

 若干二十二歳でありながら、アルビオンの機械整備班の総指揮を執るほどの才媛さいえんである。


 端正な顔立ちからは、一見すると彼女が機械いじりを得意とするようには到底窺い知れない。しかし、一度ひとたびお目当ての機械類を目にすれば、世間から優秀な整備士と評価の高い者でさえ太刀打ちできないほどの人物へと変貌する。

 また、機械への並々ならぬ愛着を併せ持ち、人間より機械優先主義を掲げる変わった思想の持ち主しでもある。それがセラ=ラウロという人物であった。


 少しふざけた態度をとることが玉に瑕だが、ラルフが頼る数少ない相手だ。


 『セラ、休暇中にすまないがサイラス艦長は今どちらに居るか分かるか』

 いきなりのセラの冗談に慣れているのか、ラルフは動じずに会話する。

 『何すか、何すかぁ~、もぉ調子狂うなぁ。少しはのってきてもいいじゃないっすか~』

 『悪いが急ぎの案件があるんだ。人も待たせているし、知っていたら簡潔に教えて欲しいのだが』

 『へぇ、急ぎですか……。残念ですけど、今艦長が何処にいるか私知りませんよ?』

 『そうか……』


 セラが知らないとなると、後は副艦長が頼りだが今日は生憎あいにく発掘協会に用があるらしく、朝早くから外出している。おそらく会議やらで通信機能を切っているから、通信しても出ないだろう。

 そう逡巡しゅんじゅんしていると、セラからある提案がなされる。


 『何なら、艦長の通信端末にハッキングしかけましょうか? そうすれば現在位置情報ぐらいなら分かりますけど』

 『できるのならお願いしたいが……。それは犯罪じゃないのか?』

 『バレなきゃ平気ですって。じゃ、ちょっと待っていて下さいね~。え~どれどれ~』


 そう言いながらセラは、艦長の持つ端末にハッキングをしかける。


 普通のメカニックであっても他人の持つ固有端末にハッキングを行うのは容易なことではない。端末の構造についての膨大な知識とそれを理解する頭脳とセンスがあって、初めてなしえる技術テクニックである。


 だがセラは数分もかからずに、艦長の位置情報を割り出すことに成功したようだ。彼女にとってみれば、ハッキングなんてどうやら朝飯前らしい。


 『どうやら発掘協会に居るみたいですねぇ。しかも商談用の個室に居るから当分は出てこなそうですね、これ』


 やはり取り込み中だったか。しかも発掘協会に居るということは、副艦長と一緒なのだろう。そうなると、数時間は待つことを覚悟しなければならない。


 『分かった、手間をかけてすまないな』

 『あれぇ~、ラルフさん何か忘れてないっすか? ハッキングまでしたんすから、感謝だけじゃ足らなくないですか?』


 ……さすがセラ、抜け目のない奴だ。このまま無視して通信を切ることも可能だが、彼女の場合、後で何をされるか分からない相手だけにその行動だけは避けた方が良い。自分が搭乗するドールが突然、でコクピットだけ爆発する等起こりかねない。


『なるべく、高い品物の要求はやめてくれよ。俺は高給取りじゃないんでね』

 『分かってますよぉ~。まぁ今は欲しいものは無いんで、一つ貸しってことにしといてあげますね』

 『お手柔らかに頼むよ。じゃ、通信を切るぞ』


 こいつは高い貸しができたな。そう思いながら通信端末をオフにする。同時に目の前に現れていたモニターも一瞬のうちに視界から消失する。

 艦長からの連絡が来るまで、ここに数時間留まっていても無駄なギャラリーを増やす可能性があると考え、ラルフは場所を移動することに決めた。


 そして、今まで椅子に座りじっと通信を待っていた男に話しかける。


 「すまない、ちょっとした所用で艦長と現在連絡が取れない状況だ。悪いがそれまで我々の陸航船ランドシップで待機になるが、大丈夫だろうか?」

 ラルフは男にそう尋ねた。

 「そうなのか……。いや、どの道あんた達にしか頼れないんだ……。俺が文句を言うのはお門違いだろう」


 そう話す男の口調はどこか諦観しているようだった。


 「急いでいるのに申し訳ないな。なるべく返答が早く貰えるよう、善処するつもりだ」

 「それで、あんた達の船は何処にあるんだい?」

 「あぁ、それならこの街の外れにある、第三埠頭ふとうに停泊中だ。」

 「よし、じゃぁ早速案内してくれ。善は急げだ」

 「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はラルフ、アルビオンでは遺跡内部探査プローヴ兼ドールパイロットをしている」

 「俺はディックだ。奇遇にも俺も遺跡内部探査をやっていた。よろしく頼むよ」

 二人は挨拶と同時に握手を交わす。

 「それでは我々の船に案内しよう。ついてきてくれ」


 そうして、二人は酒場を後にし、アルビオンの陸航船ランドシップが停泊する埠頭ふとうを目指すのであった。

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