第3章-2 豚と、ハゲとマッチョと兜
「にゃー、臭いにゃ」
鉱山についたのは太陽がギリギリ全部見える頃。
ナルだけでなく姉もいる。
勿論、残ってシオンの面倒を見るように言ったのだが、「働きたい」と言って、ついてきた。
「空気がザラザラしていますね」
そう。臭いよりも粉塵が多く、肺を傷めそうだ。マスクが欲しい。
「臭い」
今回の護衛くんは熊の獣人だ。護衛の中でも特に背が高く体がでかい。ただ、鼻が良すぎるのでここの環境は厳しいかも知れない。
「すいません。テバー鉱山の管理人がここにいらっしゃると伺ったのですが」
第一村人Aから教えてもらったのは、坑道入口近くのボロっちい2階建ての建物だ。
「どちら様で」
扉から出てきたのは、ボロボロの服に体を包み、鉄兜を脇に抱えたハゲ。50歳くらいだろうか、ヒゲに白髪が混じっている。半端ない筋肉を持っている。
護衛の奴隷がいなかったら泣いて逃げてる。
「グラフルさんからこの鉱山を買い取ったものです」
グラフルからもらった羊皮紙を見せる。
「ふむ、上で話を聞こう。おいっ、酒をもってこい」
客と話すのに酒を出すのかよ。
ハゲ兜は奥に居るメイドと思われる女性に、酒を要求した。
2階の部屋に案内をされた。酒と砂の臭いが漂う、家具はテーブルと椅子だけの無骨な部屋だ。空き瓶は多いが。
ハゲ兜に羊皮紙を渡して、ちゃんと読んでもらう。
本当に酒を飲みながらだし、俺らにも酒を勧めてきた。流石に断ったが。
ハゲ兜はジガンという名前で、鉱山で2番目に偉いらしい。
本当に自分で、2番目に偉いと言った。
「ふむ、つまり俺達がクビになったということか」
「いえ、我々が最高責任者になりますが、管理体制は現在のままを予定しております」
「よくわからんな」
偉くとも脳みそは筋肉製のようだ。
「つまり、一番偉い人が僕たちになります。誰かをクビにする予定は今のところありません」
「ふーん」
まだ理解してくれないか。説明が下手でごめんよ。
一番偉い奴、出してくれないかな。
言いづらいな。
「ボスを呼んでくるわ」
脳筋、諦めたな。まぁ助かるからいいけど。
10分ほどして脳筋が連れてきたのは、太ったおっさん。多分ハゲ兜より若い。着ている服がとても高そうだ。金のブレスレットもつけている。似合わない。
この狭い部屋に6人もいると圧迫感を強く感じる。
「君たちかね、変な手紙を持ってきたというガキは」
デブは苛立ちと軽蔑を顔に出している。
俺の心は、この程度で怒るほど狭くないが、すぐにクビにしたろ。
「こちらが、テバー鉱山を我々に譲渡された事を示す、書状になります」
ハゲ兜に見せた羊皮紙を渡す。
「ふんっ、こんな紙切れで騙せるとでも思ったか。バカバカしい」
羊皮紙を俺に押し付ける。
「おい、こんなガキ、追い返せ。相手にするな」
ハゲ兜は俺たちを敵判定したのだろう。腕ずくにでも追い出そうとする。
こえぇ。
護衛が俺とハゲ兜の間に割り込む。ナルも一歩前に出て姉を庇う隊形をとる。
かっこいい。惚れるっ!
「この書状には、グラフル家の印が押されています。偽物と断定する根拠を教えてください」
相手がどれだけ無礼な態度を取ろうが、丁寧に対応すること。
迅さんの隣で教わった大事なこと。
「お前みたいなガキどもに、そんなもの準備できるわけないだろ」
なんでこう……
話を聞くくらいしたらいいのに。
「これを見てもそう感じますか」
俺が取り出したのは、金のバッジで銀の薔薇が彫ってある。グラフル家の徽章だ。
「そ、それも偽物だろ」
流石に無理があるだろ、その理論。
「そう思うのならば結構。すぐにでもグラフル家の使者を送ってもらう」
豚が返事に詰まったのを見て、帰る素振りを見せる。
この豚は流石にもう、本物だとわかっている。
領主であるグラフルに、わざわざ使者を送らせることが、自分の立場を悪くすることも。
「ま、まて。もう一度書状を見せろ」
まだ上から目線なのは、こちらに対する牽制のつもりか、普段の性格か。
どちらにしてもレベルが低い。
「どうぞ」と丁寧に渡してやる。
「ふ、ふんっ、話を聞いてやろう」
なんだよこいつ。
護衛とハゲ兜が1歩ずつ下がって、場の空気が多少緩む。
「本日付けでこの鉱山は、我々の所有となります。鉱山内で採掘を担当している奴隷などは、そのまま引き継ぎます。そして、我々には、あなた達管理側の従業員を、再雇用をする準備があります」
多少上から、それでも丁寧に教えて差し上げる。
この話し方をすると、コミュ障を抑えられるから不思議だ。
「ふんっ、いいだろう」
何がいいんだよ。
「ではまず従業員を皆集めてください。あと採掘量がわかる書類と、帳簿を持ってきてください」
ハゲ兜は部屋から出て人を呼んでいる。馬鹿でかい声で全部聞こえてくる。
豚は青い顔をして書類をもってきた。どうせちょろまかしてるんだろ。
「ユウさん、下に皆集めたぞ。多いからここには入らん」
1階に降りるとマッチョ兜ばっかり20人くらいいた。
俺らは護衛以外、自然と1歩下がった。
さて、なにを言おうか。上でもう少し考えておけばよかった。
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