第12話 招待
「ヴヴヴヴヴヴーーーーガァァァァ」
ラウルは人間とは思えない咆哮を放った。腕や肩が不気味に盛り上がり、ギラついた野党のような表情は更に悪辣な野獣の顔になった。
「お兄ちゃん・・・この人・・・」
カチュアが後ろにひいて杖を構え直す。
「人狼・・・ウェアウルフか。こいつはまた珍しい動物に出くわした。噂に聞いてたよりずっとデカイな。動物園に連絡しねーと。」
「ア、ア、ア!相変わらず達者な口だな!剣士!」
人狼と化したラウルが、猛獣のごとくゼンに襲いかかる。丸太のような腕をふりあげ、鉄鎌のように鋭い爪での斬撃。ゼンはそれを避けるのが精一杯で反撃の余地はなかった。
「反応がいいな剣士!その動き、おまえ傭兵か?正規軍の動きじゃねぇ。」
「あぁ・・・いろいろあって転職したがな!」
爪の斬撃は次第にスピードを増していく。
ゼンは、ラウルの攻撃をギリギリで避けながら、スティレットによる刺突のタイミングを狙っていた。
「その短剣で突くつもりだろうが、この状況じゃあ空振るだけだな。」
「さぁてどうかな」
その時、カチュアが杖を地面につきたて魔術を発動し始めた。
「....ight myLight .. args 」
強烈な黄金色の光があふれかえる。ゼンはカチュアの詠唱を横目で視認する。光芒に警戒したラウルがカチュアに攻撃の意識を向けたその瞬間。
「Paralysis myPal. myLight.compress into myPal;」
カチュアの詠唱は、杖の先に眩い光を集約させた。
「myPal.onset;」
カチュアの杖の先に生まれた光球はラウルの眼前で弾けた。ラウルは顔面を抑えてうずくまった。相手の行動を数秒から数分奪う
「今度はおれが狩る番だ」
カチュアのサポートに乗じたゼンはラウルの背後にまわり、スティレットの刺突を撃ち放った。
胴体を一気に刺し貫かれたラウルは、大木が倒れるように床に伏した。
「はぁはぁ。カチュア、ナイスサポート。」
「危なかったね。あたしウェアウルフなんて初めて見たよ」
ゼンとカチュアは、それぞれの武器をおさめ、地に伏せたウェアウルフを眺めた。壮絶な殺し合いを目の当たりにしたダイアンが、おそるおそる口を開く。
「ラウルは人狼だった。この化物たちはいったい・・なんなの?」
「ラウルのとりまきの男たちは、うちの家系が生み出した
その時、地に伏せていたラウルがバネのように立ち上がり、ダイアンを丸太のように太い腕で抱き上げると、店の奥の方に跳躍して距離をとった。絶命していたと思い武器を収めていたゼンとカチュアは反応が遅れた。ラウルの動きが速すぎたのだ。
「てめぇ、なにをする気だ!」
ゼンが叫ぶ。
「動くな。女が死ぬぞ。」
ラウルがダイアンの首筋に爪を立てて冷たく言い放つ。
「・・・見ず知らずの女だ。人質が死ねば容赦なくおまえを殺す」
「おまえがそれを放置するとはおもえない」
「どうする気だ」
ラウルがすっと手にもってみせたのは、青紫の色をした不気味な粉が入った瓶だった。
「やめて!!彼女は関係ないわ!!」
カチュアが叫ぶ。間髪入れずにゼンが突進しスティレットを撃ちにきたが、ラウルはダイアンを抱きかかえながら回避した。カチュアは詠唱をはじめ、ラウルに魔術による攻撃をはじめようとしていた。裁きの光で対象を焼きつくすバニッシュ。だが、ダイアンを抱えながらも素早く店内を跳ねまわるラウルに、魔法の照準が定まらない。ゼンとカチュアに焦りが高まる。
「おまえらがさがしてるのもこれだろ?混ざりものなしのノーライフパウダーだ!」
「・・・!てめぇ・・・!?なんでそれを!!」
カウンターに飛び乗ったラウルは、ノーライフパウダーを混ぜた溶液の小瓶をちらつかせた。それからダイアンの口を無理やりこじ開けると溶液を飲ませた。すぐにダイアンがガフガフいいながら泡を吹きはじめる。肉体に吸血鬼のエキスがとりこまれた。
「さて、オレの役目は伝令だ。謁見に値せぬ者たちなら噛み殺してやるつもりで遊んでやったが・・・まぁいいだろう。オレも役目を果たして帰るとしようか。」
「伝令・・・?なんのことだ!」
「北の谷を抜けた先に深い森がある。森を抜けるとジャンセニア湖という3つの川が流れ込む湖に出る。そのほとりに古い館がある。そこに向かえ。逃げ出さないようこの娘は預かっておくぞ。」
そう告げるとラウルは、ダイアンを脇に抱えたまま大きく跳躍し、天井を突き破って逃走していった。
「おい!待て!!・・・クソ!!あいつ、ノーライフパウダーを」
「ダイアンさん、なんてことに!!」
ゼンとカチュアは一瞬で覆った形勢に追い込まれた。
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