人でなし西萩と泥酔船江

 午前三時過ぎ、西萩と船江は溝の口の街をふらふらと歩いていった。いや、正確には二人がふらついているわけではない。足下のおぼつかない船江を、ほとんどシラフの西萩が支えて歩いているのだった。

「もーちゃんと一人で歩いてよー」

 自分より少し大きな船江の体にほとんど押しつぶされる形で、西萩は悲鳴を上げる。

 酔いつぶれてから何時間も経っているというのにアルコールが抜けきっていないのか、それともほとんど寝てしまっているのか、船江の意識はもうろうとしているようだ。

 船江の腕を自分の首に回して腰を引き寄せた姿勢で西萩は歩いていったのだが、事務所に続く道を曲がった辺りでかろうじて立っていた船江から力が抜け、それに引っ張られる形で二人は地面に倒れ込んでしまった。

 ゴン、と鈍い音がして船江の頭がアスファルトにぶつかる音がする。そんな船江に乗り上げる形で転んだので西萩は無傷だったが、流石にあんまりな状況についに怒り出した。

 船江を助け起こして頬を両手で挟み込んでぺちんと叩き、自分に顔を向けさせる。

「もう、いい加減にしないと置いてくからね!?」

 それだけを言ってさっさと立ち去ろうとした西萩だったが――そんな西萩の手を引き留める手があった。

 振り返るとそこにはようやく目を覚ましたのかちゃんと目を開いてこちらを見る船江の姿があった。だけど何かがおかしい。船江はこんな表情をする奴だっただろうか。

「え、ちょっと船江?」

 尋ね返すと船江は泣きそうだった顔をさらに歪めて、強く西萩の手首を握ってきた。

「おいてかないで」

 まるで迷子の子供のような表情をされ、西萩は咄嗟に何も言えなかった。だけど数秒後なんとか西萩が言葉をひねり出そうとした時、船江の首はかくんと落ち、穏やかな寝息が聞こえ始めた。

 西萩はそれを呆然と見つめた後、船江の顔をぐりぐりとつねったりしてみたが船江からの反応はない。西萩は立ち上がるとさっきの宣言通り船江を置いて歩き去ろうとしたのだが――どうしてもさっきの船江の表情を思い出してしまって立ち去れなかった。

「……あーもー!」

 数歩行ったところで固まっていた西萩は、突然頭をかきむしると、つかつかと船江に歩み寄ってきた。

「仕方ないなあ……」

 ほら掴まって、と腕を引っ張り上げ、西萩は船江とともに歩いていく。西萩がなんとか船江を事務所に押し込んだのは、その数十分後だった。

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