第二十七話 授業参観
次の日。いつもどうり学校の道場に来た。
「この子は?」
「ヨミって言います。捨てられていて俺が拾ったと言えば人聞き悪いですが、そういうことです」
「初めまして。ヨミです。私はアルトお兄ちゃんに拾われた捨て猫です」
「捨て猫って」
「可愛いでしょ」
ヨミには俺とルイナが一緒に住んでいることを内緒にするように伝えたがいつか口が滑りそうで怖いな。
「初めまして。私はヘルサと言う。ここで剣術の先生をやっているものだ。よろしく」
先生は屈んでヨミと握手をした。
「ヨミの得意属性は星なんです」
「本当か!まさか得意属性が星の人に会えるとは。少し力を見せてくれないか」
「いいよ」
ヨミは空に手を向けると手の前に魔法陣ができた。するとそこから隕石が現れ猛スピードで空に消えていった。
「おお、すごいな」
「これでも魔力全然使ってないほう」
「そうなのか。なら訓練を手伝ってくれないか?」
いつの間にか剣術の練習が訓練になってる。
「いいけど、どうするの?私剣術できないよ」
「剣を持つ必要はないさ。そこの壁に寄ってくれ」
ヨミは壁に背中を付けた。そして先生もヨミから少し離れた。
「よし、そこからさっきの隕石を私に撃ってくれ」
「ええ⁉」
「いいの?」
「構わない」
ヨミは先ほどと同じように先生に手を向け魔法陣から隕石を出し、先生に猛スピードに向かっていった。
「はぁ!」
先生は剣で隕石を真っ二つに斬った。
「おぉ!」
割れた隕石は先生の後ろの壁に当たった。
ヨミは次々と隕石を出す。だが先生は全部斬って後ろの壁にどんどん溜まっていく。
「こんなものか」
「おばさんすごいね」
「おばっ!私はまだ28だぞ!」
「そうだったんですね~。てっきり30代後半かと」
「なっ!そんな老けて見えるか⁉」
「で、あれを俺もやればいいんですか?」
「無視か⁉無視なのか⁉」
「で、あれを俺もやればいいんですか?」
「ぐっ。そ、そうだ、が」
「よし、ヨミ俺に撃ってくれ」
「了解」
「無視されるとは。あとでルイナ君に相談しよう・・・」
ヨミは俺に手を向け次々と隕石を撃った。
俺は刀を抜くと同時に闇属性の魔力を付与した。
「はぁっ!」
俺は先生と同じようにすぱすぱと斬っていく。
集中すれば結構簡単だ、な?
「お、おいヨミなんか早くなってきてないか?」
「気のせい」
「なら質問を変える。楽しくなってきてないか?」
「う~ん、当たり」
「当たりかよ!」
「ふふ、必死なアルトお兄ちゃんはカッコいいし可愛いね」
「褒めてくれるのはありがたいんだがっ!ちょ、ちょっともう止めてくれないか⁉」
「仕方ないなぁ~」
ヨミの手から魔法陣が消えた。
「はぁ、はぁ、頼むからSには目覚めないでほしい」
「Mのほうがよかった?」
「どっちも程々くらいならまだいい。それより溜まった隕石どうするんだ?」
俺の後ろには大量の斬られた隕石がある。
「あれはもう爆発させるしかない」
「爆発⁉そんなことしたら道場壊れるぞ」
「いや、この道場の一面には防御魔法が張られている。少しくらいなら耐えられるが。威力はどれくらいなのだ?」
「多分学校の校庭が3分の2消えるくらい」
「なら大丈夫だ」
大丈夫なのかよ
「なら爆破するよ」
「うむ」
「ちょ、待って」
「えい」
俺の言葉に耳を貸さず、ヨミは手を前に向け握った。すると隕石が赤くなって膨らみ、物凄い爆音とともに爆発した。
「うわっ!」
俺は後ろからの爆風に飛ばされ転がった。
「こ、鼓膜とさよならするところだった」
耳が聞こえることを確認して上を向くとヨミがいた。
「ふふ、ビックリした?」
「ビックリどころじゃなかったよ」
後ろを向くと道場には傷一つない。
「今の音、学校のほうに聞こえてないんですか?」
俺は立ち上がった。
「多少は聞こえたと思うが授業に支障はない」
「よかった~。ヨミ、俺で遊ぶのも大概にしろよな」
「ごめんなさーい」
反省の意が感じられないな。
「二人とも仲がいいのだな。ついこの間会ったのだろう?」
「色々ありましてね」
昨日はずっと俺を掴んでたし、眠るときも今日も俺と寝たいって言うからルイナは怒るし。本当に猫みたいなんだよな。
「私はアルトお兄ちゃんと一緒に寝た仲だから」
「なっ!アルト君!君はこんな小さい子を!」
「何変な想像してるんですか。何顔赤くしてるんですか。バカですか。気持ち悪いですよ」
「そ、そこまで言わなくても」
先生はそっぽを向いた。
「今のは先生が悪いです」
「すまん」
「ヨミも変なこと言うな」
「どこか変だった?」
「お前絶対分かってるだろ」
俺はヨミに顔を近づける。
「何のことかさっぱりだよ」
ヨミは可愛らしい笑顔で答えた。
こいつの精神年齢は何歳なんだ。
「まぁいいや。で、先生次は何するんですか」
言った瞬間チャイムが鳴った。
「すまないが、次の時間から剣術の授業だ。今週から魔法と剣術の授業が始まる」
「そういえば夏休みが終わってから剣術の授業ありませんでしたね」
「夏休みが終わって少しの間は魔法と剣術の授業はないからな」
「なるほど。それで俺たちはこれから何をすれば?」
「うーん。アルト君は見学者なのだから学校の中を歩いてみたらどうだ?ルイナ君の授業を見たりとか」
「えっ、学校の先生とか俺が見るの知らないのに見てもいいんですか?」
「アルト君は前にガルアと学校で戦ったから顔は知れてるし大丈夫だろう」
「でも一人で学校歩いてるって恥ずかしいな~」
「一人じゃない。私がいる」
「はぁ~、じゃあ行ってみるか。ルイナの教室って何階ですか?」
「3階だ。授業の邪魔にならないようにな」
「わかりました」
俺はヨミと手を繋いでルイナの教室へ向かった。
「は~、次数学か~」
ルイナは頬杖をついた。
「どーしたの?ルイナちゃん」
前と後ろの席にいる仲のいい二人から話しかけられた。
「昨日色々あって疲れてるんだよぉ~」
「あ、聞いたよ。魔王の幹部と戦ったんだっけ?」
「魔王の手下とならね~」
「それでもすごいじゃん!いいな~騎士団」
「疲れた~。家で休みたい」
「なら彼氏に癒してもらいなさいよ~」
「いつも弁当作ってくるとかこのラブラブカップルが~」
ルイナは二人に髪をくしゃくしゃにされた。
「あぁ~も~う!二人も彼氏作りなさいよ!」
「私たちにはルイナちゃんしかいないの~」
「そうそう」
「この二人ったら」
髪を直しながら呆れていると
「なんだか廊下が騒がしいね」
「本当ね。なにかあったのかしら」
廊下に出てみると
「キャー!アルト先輩!」
「はは、どうもどうも」
「この子可愛い!妹さんですか?」
「い、いや妹では・・・」
俺とヨミは一年の女子生徒に囲まれていた。
どうやらガルアと戦ったときからこの学校の人気者になっていたようだ。モテるのも辛いものだな。
二年の女子からも遠くからちらちら見られる。そこにはルイナもいた。
「おーい、ルイナ!」
するとこちらにやってきた。
「ちょっとみんなどいてね~」
「ル、ルイナ先輩」
ルイナが来ると皆後ろに下がった。俺とルイナが付き合ってることは知ってるのか。
俺の前に立つとなぜか胸を殴られた。
「なんで殴ったの?」
「なんででしょうね」
ルイナが顔を引きつらせながらで言う。
「てかなんでここにいるのよ」
「暇だから学校見学」
「あぁー、そうか剣術の授業が始まるからか~」
「そゆこと。ってことでルイナの教室の授業見させてもらうよ」
「えぇ⁉大丈夫なの?」
「ヘルサ先生が言うにはな」
「そ、そうなのね。もうすぐ始まるから教室の後ろに立ってる?」
「そうだな」
ルイナは後ろにいる後輩に近づいた。
「みんなも授業が始まるから教室に戻ろうね~。それと絶対に届かない人を追わないことね」
『は、はい・・・』
「お前言いすぎだぞ」
絶対に届かないから夢があるんだ。そう言おうと思ったが俺から絶対に届かないと言うと悲しませてしまいそうなので止めておいた。
「ならみんな最後にハイタッチしよう。二列に並んでね」
俺は両手を横に上げて一年の女子は笑顔で俺とハイタッチをして2階に降りて行った。
最後の二人が終わった後にルイナが俺の両手を握りなぜかそのまま壁まで押された。
「な、なに?壁ドンならもっと上手く――」
「死ね」
握られてる手が氷漬けになった。
「ギャ~!」
「死ね死ね死ね!」
ルイナが『死ね』と言う度に腕が一瞬で氷で凍らされてく。
俺はこのままだと全身が凍りそうなので手を振りほどいた。
「あっぶね~」
見ると腕が全部凍っている。
「よかったわね~。全身冷凍されなくて」
「ああそうだな。で、これどうにかしてくれないか」
「さぁね~。一人で頑張って」
「めんどくさいな」
俺は手から闇魔法を出し、腕に纏わせて氷を壊して闇魔法を消した。
「魔法使うなんてずるいわよ!」
「何がだよ。魔法を魔法でなんとかしただけだ」
「せっかく困るアルトを見られると思ったのに」
「残念だったな。ほら授業始まるんだろ」
チャイムが鳴りルイナは教室の戻り、俺はヨミが疲れたというのでおんぶをして教室に入った。
「席に着け~。ん、君は。アルト君だね。見学かい?」
数学の先生が聞いてきた。
「はい。お邪魔なら出ますけど」
「いやいや、そこにいていいですよ。ということで号令!」
「起立、礼、着席」
そうしていつもどうり授業が始まった。
今の俺は授業参観に来ている子供をおんぶした親のようだ。
「よかったね~、ルイナちゃん。彼氏が見守ってるよ~」
「うるさいわね。授業に集中しなさいよ」
「しかも彼氏がおんぶしてる子めっちゃ可愛いじゃん。もしかして娘?」
「な、なわけないでしょ。何バカなこと想像してるのよ」
「あは~、照れてる照れてる」
「この変態ども」
ルイナの前と後ろにいる子がニヤニヤしながら俺に手を振ってる。よくわからないが手を振り返した。
あの二人は前に弁当を持ってきてくれた人だな。ルイナと仲いいのか。
授業を見ている限り元の世界の高校と同じようなところをやっている。
「ではアルト君、この式を求めてください」
「え、俺⁉えっと……多分、y=3x-3、ですかね」
「正解だ!」
『おぉ~』
いきなり答えろって言われて一瞬思考停止したけど答えられてよかった~。暗算で出来たことが自分でもすごい。高校に入ってからテストは80点までには抑えてたからな。学年トップ3には入ってた。ゲームも勉強も出来て友達からは羨ましがられてたな~。懐かしい。
「へぇ~、彼氏君って頭いいんだ。ルイナちゃんが惚れる理由もわかるわ」
「強いし頭もいいしイケメンとか、いい男見つけたねぇ~」
「アルトは渡さないわよ。しかも強さも賢さも私のほうが上よ!」
「じゃあ二人とも完璧なカップルじゃん。いいねぇ~」
「もういいでしょ。ほら集中集中」
そのまま授業は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます