第二十二話 ガルア

「今日はこれまでだ」

「はぁ~、終わったぁ~」

「基本的な動作は身についている。あとは鍛えるだけだ」

「鍛えるのが一番辛いんですけどね~」


 ゲームでは経験値以外でステータスを上げるとき、道具で一瞬で上がることが多いがそれを現実ですると凄く疲れるし長い。


「それで今日はルイナ君と一緒に帰るのか?」

「俺に聞かれてもわかりませんよ」

「そうだな。なら私が聞いてくるとしよう」


 ヘルサ先生はルイナの教室に向かっていった。

 俺はまた仰向けになった。


「あのルイナから告白するとは考えにくいな。どーなるんだろ」


 色々と考え事をしていたそのとき


『誰か出てこいゴラァ!』


 外から学校全体に伝わるくらいの大きな声が聞こえた。


 恐る恐る渡り廊下に出てみると校門に何十人かの男がいる。その全員が全体的に黒く派手な柄の服を着ていた。


「まさかルーイン組⁉」


 前に仲間がやられたから仕返しに来たっていうやつか?


 校舎の窓には生徒が何か何かと集まっている。


「ちょうどいい!これくらい人数がいるならわかるはずだ。ルイナってやつとアルトってやつを知らねーか?」


 一番前にいる一人の男が言った。


「なっ!やっぱりか」


 窓にいる生徒がざわざわと騒ぐ。


「ルイナならここにいるわよ!」


 すると一つの窓からルイナが校庭に飛び降りていった。


「あいつ、なんの躊躇いもなく出やがって」


 俺は覚悟を決めてルイナのほうへ向かった。


「アルトもここにいる」

「ア、アルトっ!」


 少しルイナが動揺した。


 まぁこんな場面でもそうなるか。今日一度も顔を合わせてないし。


 俺はルイナの隣にきた。


「お前らルーイン組か?」

「そうだ。仲間が世話になったな」

「あのときのやつらは全員刑務所送りになったのになぜそれを知っている」

「実はもう一人隠れていたんだよ。そいつから聞いてやって来たんだ」

「それで、わざわざ大声で呼んで何の用なの?」


 気を引き締めたルイナが言った。


「俺たちのボスが用があるってよ」

「ボス?もしかして」

「みなさんご存じ4代目ルーイン組組長ガルア・ダル・グレスト様だ!」


 するとルーイン組のやつらが横に避け真ん中に道ができた。

 そこには図体がデカく、ぼさぼさの黒髪の男がいた。黒いタンクトップを着ていて動きやすそうな服装だ。


「俺一人でいいって言ったのによぉ~。すまねぇな二人とも」


 んん⁉何だか結構優しような人だぞ?もっとオラオラなやつかと思ったが。


「用ってのは、俺の子分がお前らに喧嘩売ったことについてだ」

「それで?敵討ちに来たってこと?」

「いや」


 そういうとルーイン組組長ガルアは頭を下げた。


「すまなかったな、俺の子分が世話になって」

「え?」

「俺たちルーイン組は自分から喧嘩を売らないことがモットーにしている。子供に喧嘩を売ってさらに高校生にも喧嘩を売るとはあいつらは俺の恥晒しだ」


 喧嘩を売らない暴走族ってなんだよ。


「おいルイナ、話が違うぞ。あいつは最悪な有名人って言ってただろ」

「私だってわからないわよ。だから顔を近づけないで!」


 ルイナは少し顔を赤らめているがごちゃごちゃ言ってる場合じゃないな。


 ガルアは頭を上げると


「それと、ただ謝りに来ただけじゃなくて一つして欲しいことがある」

「して欲しいこと?」

「ああ、俺と戦ってくれ」

「ええ⁉なんで?」

「俺の子分が歯に立たなかったって聞いてな」

「いや俺闇魔法くらって気を失ったんですけど⁉」

「あ?そうなのか?まぁいい俺と戦ってくれ」

「いやいやいや、歯が立たなかったわけじゃないとわかったのになんで戦う理由があるの⁉」

「こんなに人が来て学校にも迷惑かけて、ただ謝りに来ただけってのも失礼だろ」

「これからここで戦うのも失礼ですけど⁉」


 ツッコミどころが多すぎで疲れてくるな。


「まぁいいだろ?戦わねぇと俺の気も済まねぇんだよ」

「う~ん」

「別にいいんじゃないか」


 後ろを向くといつの間にかヘルサ先生がいた。


「いいんですか?校庭がボコボコになる可能性もあるのに」

「ああ、校庭ぐらいすぐ直せる。それにこの広さだ、そこまで被害もないだろう」

「ならやるか」

「うん」

「すまねぇな」

「で、どうするんだ?俺とルイナ、二人を同時に相手にするのか?」

「そうだ」

「大丈夫なのか?」

「高校生二人くらい大丈夫だ」


 今喧嘩売っただろ。



 そうして俺とルイナ、ガルアは校庭の真ん中から少し離れたところに移動した。

 他のルーイン組の人はガルアが脅迫して無理やり帰らせた。


「あいつは見たところ格闘家ね。腕の動きに注意して。念のため足にも」

「わかった」


 ガルアは手に黒いグローブを付けていた。今は暇そうに頭を掻いている。


 本当にやる気あるのか?


 それよりルイナが戦えそうでよかった。変になって戦えなかったからどうしようかと思っていたが大丈夫そうだ。



 一方ルイナは



 あ~!なんでこんな時にアルトと一緒に戦わないといけないのよ!こんなことしてたら自分と向き合う前に頭がおかしくなる!

 早く終わらせないと。




「私があいつの動きを封じるからアルトはそこを狙って。あと私の攻撃に当たらないように注意してね」

「了解」

「作戦会議は終わったか?」

「ああ!」


 するとヘルサ先生が校庭の真ん中に立った。


「今回の勝負はどちらかが降参するか、私が命に危険があると思ったら終了となる」


 そして先生は校舎の窓にいる生徒に向かって


「ルイナ君の実力は皆も知ってると思うが、あのアルト君も中々に強い。今回の勝負は皆の勉強なると思う。しっかり見ておくように。それと3年生のプリーストの人は待機しておくように」


 多分この高校の生徒全員、960人が窓から見ている。玄関には他の先生達が見ている。


 プレッシャーがすごい。


「それではルイナ君・アルト君とガルアの勝負を始める。準備はいいか」


 俺たちは手を挙げた。


「よーい」


 俺とルイナ、ガルアはそれぞれ構えた。


「スタート!」


 開始の合図と同時にヘルサ先生は空に飛び、俺は刀に炎属性の魔力を付与した。


 俺はガルアに向かって走った。


「バリス刀か。マニアックなやつだな」

「これが好きなんでな!」


 ガルアの前で刀を振った、が左に避けられた。だがそこにルイナの氷魔法が撃たれるがそれも避けられてしまう。


 ルイナは避けるガルアに向かってどんどんと氷魔法を撃つが全て避けられる。

 俺は隙を見て再び刀を振った。


「はぁ!」


 するとガルアは俺の刀を持っている腕を持ってそのまま地面に投げつけた。


「オラァ!」

「ぐぁ!」


 転がる体をなんとか立て直した。


「アルト!」

「よそ見してる場合じゃねーぞ!」


 ガルアはルイナに突進してきた。


「ぐっ」


 ルイナは氷の壁を作ったがガルアのタックルの耐えられず氷の壁ごと吹っ飛ばされた。


「きゃぁ!」

「ふん、それでも氷は割れないか。ん?」


 俺は背後から刀を振ったがそれも気づかれ避けられてしまった。


「くっそ」

「残念だったなぁ!」


 ガルアが俺を蹴ろうとしたとき、ルイナがしゃがんだまま氷を撃ったが避けられた。


「ちっ、あいつが先か」


 ガルアは再びルイナに向かって突進しようとしている。


「アルト!飛んで!」


 よくわからないが俺は言われたとうり学校と同じくらいの高さまで飛んだ。


「はぁ!」


 ルイナが手を地面に当てた瞬間、地面が一瞬で氷になった。


「ちっ」


 そのせいでガルアの足は氷で凍って動けなくなっている。


「アルト今よ!」

「了解だ!」


 ここで決めてやるぜ!その大きい体に大きい傷を送ってやる!


「おらよっ!」


 俺の刀はガルアの体を斬った、と思いきや。


「なっ!」


 ガルアは腕だけで刀を防いだ。


 例えこの世界の人は皮膚が硬いからといって全く斬れないってことあるのか⁉


「また残念だったなぁ!」


 ガルアは無防備な俺の腹にかなり重いパンチをした。


「がはぁ!」


 俺の体は宙を舞い地面に落ちた。


「アルト!」


 ルイナがすぐさま俺のもとに駆けつける。


「大丈夫?アルト」

「あ、ああ。骨は折れてないから大丈夫だ。それよりあいつ、刀を」

「あいつのジョブ、格闘家は全身のどこにでも魔力を集中させてそこを硬化することができるの。だからアルトの刀の威力じゃ斬れなかった」


 つまりさっきあいつの腕は鉄の塊みたいになったってわけか。


「どうする?リタイアするか?」


 ガルアが顔だけこちらを向けて言った。


「しないなら本気でこい。そのかわり俺も本気を出すがな」

「へっ、今のが本気じゃないならかなりマズいぞ、ルイナ」

「勝てる方法でいえば闇属性、じゃない?」

「使うしかないのか。昨日副団長に当分使わないって言っちゃったのにな」

「私も詠唱魔法を人間相手に撃っちゃダメって言われたのに」

「ルイナは副団長の言葉を守るためにリタイアするか?」

「そんなわけないじゃない」

「そうか」


 俺は腹を押さえながら立ち上った。


「リタイアしないか。いい根性だ」

「諦めるのは出来ること全部やってからだ」

「なら俺の本気を見せてやろう」


 ガルアはそういうと手に、足に、全身に力を入れた。


「ハァァァァァァ~!」


 ガルアの足の氷が砕けてゆく。


「この魔力は!」

「ハァッ!」


 その瞬間、ガルアは全身に真っ黒い煙を纏った。物凄いオーラを感じる。


「これが俺の本気だ」

「くっ、やっぱりあいつも闇属性か。なら俺も」


 俺は鍔に手を当てて炎属性の魔力を消した。


「……ルイナ」

「どうしたの?」

「多分闇属性の魔力を付与してられるのは3分だ。だがら先に言っておくが」


 俺はルイナの方を見た。


「なに?」

「そんなに悩まなくてもいいんだぞ?俺はルイナが出した答えならちゃんと返すからさ」

「……え?え⁉な、なんで?なんで知ってるの⁉」

「ヘルサ先生から聞いたんだよ」

「誰にも言わないでって言ったのに」

「先生から『答えを待っていろ』って言われたけど、相手の気持ち知ってるのにずっと知らないふりしてるのもじれったし、集中できないからな」

「え、えと、私どうすれば」


 ルイナはかなり困惑してるようだ。


「まぁ答えは家に帰ってから聞くさ。ちゃんと言葉でルイナの気持ちを俺に伝えてくれよ」

「わ、わかった」

「で、家に帰るにはあいつを倒さないとな。俺が隙を作る、ルイナはその間に」

「う、うん」


 俺は刀に闇属性の魔力を付与した。


「ふぅ、昨日やったから今日は出来ないかと思ったかが大丈夫か」


 闇属性の魔力を付与した刀は相変わらず凄い力だ。


「やっと本気を出したかと思えば、お前も闇が得意属性なのか」

「ああそうだ。だからどっちの闇がより黒く、より深く、より強いか勝負だ」

「ふん、面白れぇじゃねーか。かかってこい」


 俺とルイナ、ガルアは再び構えた。


「はぁ!」


 俺はガルアに刀を振った。ガルアは腕でガードをしたが少しだけ血が出た。ダメージは入るようだ。


「よし!」

「ちっ」


 ガルアはすかさず横腹に蹴りをくらわそうとしてきたが


「なんのっ!」


 俺は刀で威力を弱めた。それでも10メートルほど吹っ飛ばされた。


「ダメージは結構くるな~」


 ガルアを見るとさっきの刀のせいで足から血が出ている。


 俺はまたガルアに向かって走り、刀を振る。

 だが今度は避けられ、ガルアはまた蹴りくらわそうとしたが、それも刀で威力を弱めた。



 何度もガルアに刀を振り、腕でガードされるか避けられては、刀で蹴りを受け止めた。


「どうした。もう疲れたかぁ?」


 俺の体はあざだらけでガルアも傷だらけになった。


「はっ、なわけねーだろ。これからお前を思いっきり斬ってやるよ」


 俺はガルアに向かって走って刀を振った。


「同じことやってても変わらねーぞ!」


 俺の刀はガルアの腕でガードされ、また蹴りを刀で受け止め、10メートルほど吹っ飛ばされた。

 だが俺はまたガルアに向かって走った。


「何度やっても――」

「はぁ!」


 俺はガルアの周りに土魔法で土の壁を作った。


「何っ⁉何が起こった⁉」

「ルイナ!」

「おっけー!我を本気にする者よ、全てを凍らす絶対零度の氷に飲み込まれ、華やかに散りゆくがよい!」


 ガルアが土の壁を壊したがもう遅い。


「零凍氷華れいとうひょうか!」


 ルイナの詠唱魔法が一瞬でガルアに当たり、分厚い氷に包まれた。


「有言実行だ!」


 俺はガルアに向かって刀を振った。


「オラァ!」


 ルイナの詠唱魔法の氷ごとガルアの背中を斬った。


 すると氷が散ってゆき、雪の結晶のようなものが舞った。

 ガルアは地面に倒れた。


「く、くく。俺の負けだ」

「ガルアの降参により、ルイナ君・アルト君の勝利!」

「はぁ、やった、のか」


 同時に俺も地面に倒れた。


「アルト!」


 ルイナがすぐに駆けつけてきた。


「大丈夫?こんなに痔だらけになって」


 ルイナは俺の体に手を当てて回復魔法を使った。


「ははっ、さすがルイナだな。闇魔法と鉄の塊みたいなやつを一瞬で凍らせれるなんて。正直あれが決まらなければどーしよーかと思ってたわ」

「もう、本当に心配だったんだから。あのままやられるんじゃないかって」

「まぁ勝ったからいいだろ。これで家に帰れるんだからさ」

「う、うん」


 ガルアのほうを見ると3年生のプリーストの二人に回復魔法をしてもらっていた。


「よくやったなアルト君、ルイナ君」


 ヘルサ先生が近くにきた。


「本当に校庭大丈夫です?ここら辺ボコボコですけど?」

「心配ない、学級委員会が直してくれるさ」

「人任せなんですね」

「私は魔法が得意ではないからな」

「ん、あぁ」

「ちょ、ちょっとまだ動いたらダメです!」


 ガルアが回復途中で立ち上がった。


「もう大丈夫だ。これ以上学校にせわにかけたくないしな」


 ガルアは俺を見ると


「今回は負けたが次は勝つからな。覚えておけ」

「ああ。それより」

「ん?」

「あの全身が闇魔法みたいになるやつカッコよかったな!あれに技名とかあるのか?」

「ん、いやないが」

「なら獣闇身魔じゅうあんしんまって名付けようぜ!意味は、闇を身にする姿は魔の獣のよう。どうだ?いややっぱりダークウェアビーストにするか」

「な、名前なんてなくていい、だから寄って来るな」


 気づくといつの間にか立ち上がってガルアに押し寄せていた。


「あ、ごめん」


 厨二病が出てしまった。久しぶりに興奮したからつい自我を忘れてしまっていた。


「俺は帰る。またな」


 そういうとガルアは飛んでいった。


「これにて解散だ!みんな帰っていいぞ。それと三人の戦いを見ての感想をノートに書いて明日提出するように。あと学級委員会は明日の朝に校庭を直しておけ」


 ヘルサ先生が言うと皆『え~』と言った。


「痛みも引いてきたし俺たちも帰るか」

「そ、そうね」


 俺は落ちた刀を鞘に戻した。






「あの二人が勝ちました」

『…………』

「はい、一回目の接触時と違い、騎士団に入り、かなり腕を上げているようですね」

『…………』

「あと少し時間を置いたほうがいいかと」

『……』

「わかりました」



「はぁ、まさか異世界から連れて来るなんて、あの方も無茶苦茶ですね。でもこれで……」


 その男は笑みをこぼし、学校の隅から姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る