第二十一話 違和感
「ごちそうさま~」
晩御飯を食べ終わって俺はいつもどうり後片付けをする。
「手慣れてきたわね」
ソファーでうつ伏せになって足をバタバタさせているルイナが言った。
「そりゃ魔法も使えるようになったし、調整もそれなりに出来るようになったからな」
「そういえばアルトのいた世界は魔法がないんだっけ?」
「そうだよ、つまんねーよな」
「つまんないかどうかは分からないけど行ってみたいな~」
「どうしてだ?」
「ん~、なんとなく」
「ふーん」
そして話すことがなく沈黙が続いた。
何か話題を出さないとな。
「な、なぁルイ――」
「アルトってさ」
俺の声を遮ってルイナが口を開いた。
「なに?」
「好きな人っている?」
んんん⁉これはどういう意味だ⁉ラブコメ的な展開だとルイナは俺のことが……いやいやいやいやあの恋愛ネジ外れバカがそんなはずは。ただの早とちりか。
「どうしたの?」
「あ、いや、好きな人というと?」
「今までで好きだなっていう人。別れた人とか、この世界に来てからの人、とか」
ええ⁉本当にどういう意味なんですかルイナさん⁉
「えっと~、強いて言えば今日言った元カノかな?」
「そう。あとアルトってどういう人が好み?」
これを聞くってもう……いやルイナ以外の誰かが俺のことが好きでルイナに好みを聞いてくれって頼んだんだ!でも誰が⁉
えーと、この世界に来て会った女だと~、子供達?ヘルサ先生?国王の孫?副団長?それか学校か騎士団の誰か?
思い当たる人を頭の中で探すが可能性が一%も感じられない。
「ねぇ聞いてる?」
ルイナがむすっとした顔で言った。
「聞いてるけどなんで知りたいんだ?」
率直過ぎたか?
「なんとな~く」
んん~。まぁ考えるのは後で今は答えるか。
「んと、可愛くて、優しくて、仕事熱心だけど他のことは甘えてて、よく側にいてくれる人、かな~」
ガチで答えたけどどうなんだろう。あと厨二病の人、とか言えないし。
「へぇ~。で、元カノさんはそれに当てはまってたの?」
「ま、まぁな」
話してるうちに片づけが終わった。そして俺は椅子に座った。
「んで、この話をして得したことはあったのか?」
「別に~。じゃ私お風呂入ってくる」
「あ、ああ」
はぁ~、さっきの話は一体何だったんだ。
俺は机に伏せてため息をつく。
ルイナからああいう話はしないと思っていたけど。どーいうことなんだ?
ただルイナに好きな人がいて男の気持ちが知りたくて俺に聞いたって展開かもしれないし~。
頭を抱えている間にルイナが風呂から上がってきた。
「入れるわよ~」
「ああ」
俺が下着とパジャマを取りに自分の部屋のドアノブに手を当てると
「私もう寝るから」
「え?酒飲まないの?」
「うん、今日は疲れたから」
いつもなら疲れてるからこそ飲むはずなのに。
「じゃおやすみ」
「お、おやすみ~」
明らかに俺を避けてるようにしか見えないんだが。まぁ今はどう考えてもわかることじゃないか。
俺は風呂に入って就寝した。
翌日の朝
「ふぁ~、おはよ~」
俺があくびをしながらリビングに出るといつもキッチンにいるルイナの姿が見えない。
机には冷えないように炎属性の魔力を纏わせてある朝ご飯と手紙がある。
椅子に座って朝ご飯を食べながら手紙を開くと
『先に学校行ってるね』
と書いてある。
「昨日の話に関係あるのか?」
俺は朝ご飯を食べ終わり後片付けをして学校に向かった。
「ルイナ君の様子が変?」
「そうなんですよ」
俺はヘルサ先生と戦いながら昨日のルイナのことを話している。
「なるほど。だが今聞いた限りだとルイナ君は君のことがす――」
「俺もそう思ったんですけどあのルイナがあんな冷静な感じで恋愛話をするとは思えないんですよ」
「ふむ、確かにな」
「今日も先に学校に行くって手紙書いてたし、どういうことなんでしょう」
「ん?それは今日が魔法テストの日だからじゃないのか?」
「魔法、テスト?」
「ああ、魔法の威力を検査するテストなのだが。君は受けたことがないのか?」
そういえばルイナ以外に異世界から来たこと言ってなかったな。
「まぁ魔法に関してはあまりやってこなかったので」
「……不思議な奴だ。隙あり!」
「あっ」
俺は刀は宙を舞って床に刺さった。
「戦いにおいて他のことを考えるのは良くないぞ」
「は、はい」
先生も考えてたじゃねーか。
「それで、ルイナ君のことはどうするのだ?」
「どうするとは?」
「ずっとその様子がおかしいままではいかないだろう」
「う~ん。昼になったら弁当持って来るんでそこでどんな様子なのか見て決めます」
「そうか。なら刀を持て!」
「休憩は?」
「2時間後だ」
「はぁ~」
「騎士団の訓練にいったから少しは強くなってると思ったらまだまだだな」
「そりゃあ一日で強くなったら苦労しませんよ」
俺は床に仰向けになった。
「アルト君のところの団長は誰だった?」
「えと、ミラス団長でした」
「第2の若造か」
「先生と団長はどっちが強いんですか?」
「私だ!」
凄い気迫で睨まれた。
「そ、そうですか」
「あいつは人に優しすぎるからな。そこをクレスがカバーしてるのだが」
「ん?クレスって誰です?」
「知らないのか?まぁそれもそうか。お前のとこの副団長だ」
そういえば副団長の名前聞いてないな。
「副団長ってどういう名前なんです?」
「クレストゼア・ヒーシスア・ユリアだ」
「最後にアが付くんですね」
「そうだ。本人は嫌ってあまり人に自分の名前を教えないそうにしている」
だからか。
「呼び名も長いからクレスでいいと言っているが団長がミラスだからな。つくづく名前に困るやつだ」
確かにミラスとクレス、最後にスが付く。
「あのことは……今はいいか」
「ん?なんです?」
「何でもない。それよりもう昼だからルイナ君が弁当を持って来る思うのだが」
「来ませんね」
「いや誰かの足音がする、二人だ」
ルイナと誰かが来たのかと思い俺は体を起こした。
「失礼しまーす」
だがそこには見たことのあるような、ないような学校の生徒の女子二人だった。
「どうしたのだ?」
「え~と、ルイナちゃんからアルト君にこれを渡してって言われて」
その子の手にはいつも食べてる弁当箱があった。
「あっ、ありがとう」
俺は弁当箱を受け取った。
「ルイナ君はどうした?」
「なんかアルト君と今は会いたくないって言ってて」
今は?ならいつ会えるってんだ。
「ルイナ君は今どこにいるのだ?」
「屋上のベンチでお弁当を食べてます」
「ふむ、アルト君は食べていてくれ。私はルイナ君のところに行ってくる」
「ならついていきますよ」
「いやここにいてくれ。私は生徒指導もしているし、今はアルト君のいないほうが話してくれるだろう」
「わかりました」
そうしてヘルサ先生は女子二人とともにルイナのいる屋上へと向かって行った。
「はぁ~」
私はあることを思い深いため息をついた。
そのことを考えながら自分の膝にあるお弁当を開けた。
「あの二人、アルトにちゃんと弁当渡してくれたかな~?」
見上げると青い空の所々に積雲が見える。
「ルイナ君」
呼ばれた方を見ると
「あっ、ヘルサ先生」
「少し話さないか?」
「いいですけどアルトとあの二人は?」
「アルト君は弁当を貰って食べているよ。あの二人も教室で食べている」
ヘルサ先生は剣の鞘を腰からとって隣に座った。
「魔法テストはどうだった?」
「もちろんA+でしたよ」
「よかったな。それで、なぜルイナ君は自分でアルト君に弁当を持って行ってあげなかったのだ?」
「そ、それは」
「言えないことなのか?」
「言えないってわけじゃないんですけど」
それを考えると頭がこんがらがる。
「どうした?顔が赤くなっているぞ」
「いや、あの。誰にも、言わないでくださいね」
「わかっている」
一旦深呼吸をして心を落ち着かせた。
「昨日の昼、騎士団訓練でアルトと本気で戦った時くらいからなんかアルトを見ると変な気分になって」
「変な気分とは?」
「なんか体が熱くなって緊張するんです。アルトの前では平然を装っていたんですけど、耐えられなくて」
「……ルイナ君、それは恋というやつではないのか?」
「こ、い?」
「アルト君に恋愛感情を抱いている、ということだ」
それを聞いた瞬間、心の中で何かが湧き上がった。
「だ、大丈夫か⁉顔がもっと赤くなっているぞ」
「大丈夫じゃないです!」
その何かは収まることなく私の心に湧いてきて爆発しそうなのにしない。恋愛のことを言われて変になる時よりも少し違う何か。
「私がアルトのことがす、好きなわけないじゃないですか!」
「でも自分でも心のどこかでわかっているのだろう」
ヘルサ先生は冷静な目で私を見る。
「う、うぅ」
「その様子では、昨日アルト君に好きな人のことを聞いたのは無意識というわけか」
「アルトから何か聞いたんですか?」
「まぁ、ルイナ君の様子が変と言っていた」
「平然としていたのに……」
「逆にその平然さに違和感を感じたのかもな」
「私も後でなんであんなこと聞いちゃったんだろうって思ってて」
「自分にも違和感を感じて悩んでいたのか」
「もう、私どうしたらいいんですか」
「自分と向き合え。それが出来ればその変な気分から解放されるだろう」
そういうとヘルサ先生は屋上を出ていった。
「自分と、向き合うか」
「どうでした?ルイナは」
「思ったとうりだ」
「と、いうことは」
「そういうことだ」
「マジか~」
食べ終わった弁当を閉めて大の字に仰向けになった。
「アルト君はルイナ君のことをどう思うのだ?」
「別に嫌いってわけじゃないですし、一緒にいて楽しいし、付き合わない理由はないですけど」
「好きなのか?」
「うっ……癪に障りますけど好き、かもしれません」
「そうか。どうする?君から告白するか?」
「まぁ男として俺からしたほうがいいとは思いますけど」
そういえば自分から告白したことなんてなかったな。
「今はルイナ君の答えを待っていろ。あの子も真剣に考えているだろうしな」
「わかりました」
と言っても同じ家に帰るんだし、気まずいな。
「だから君は今何も考えなくていい。立って刀を抜け」
「はぁ、もう少し休憩させてほしい~」
俺は弁当箱を道場の端っこに滑らせて刀を構えた。
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