第二十話 病む
「はぁ~、癒される~」
「お前一発もくらってないだろ」
「それはアルトもじゃない」
俺とルイナはハイプリーストにベッドの上で回復魔法と魔力が回復するスピードを上げてくれる魔法をかけてもらっている。そして隣のベッドにいるルイナと話している。
「俺は今少し病んでるところなんだ」
「え?なんで」
「なんでって」
ルイナと戦ってる時に思い出した、あいつのこと。あんまり思い出したくなかったが一度思い出すと当分忘れられない。
「どうしたの?」
「……なんでもないよ」
「えー気になる~」
「話す気になったら話すさ」
「ならアルトに一つ目の命令~、さっきなんで病んでたの~?」
「お前本当にその命令でいいのか⁉」
「だって気になるんだも~ん」
ルイナはニヤニヤしながら言った。
「つまらない内容だったとしてもか?」
「ん~、本当につまらなかったらこの命令はなし」
「ズル過ぎだろ!」
「ごちゃごちゃうるさいわね、命令なんだから早く言いなさい」
「はぁー、仕方ねーな」
俺は目を閉じた。
「えっと、さっき闇属性を使っただろ?」
「そうね」
「最初はまだ制御が難しいから使うことになるなんて思ってなかったんだけど、まぁ、ルイナに全然ダメージが与えられなくて諦めようと思ったときにある人のことを思い出してな」
「ある人って?」
「元カノって言えばいいかな。前に告られたって言ってただろ?」
「あぁ~、その後付き合ってクラス分かれて自然消滅しちゃった人?」
「ああ。あと自然消滅は嘘で、しっかり別れたんだよ。クラスが分かれたっていうのも嘘」
「ならどうして別れちゃったの?」
「あいつと同じ高校を目指してたけど俺の学力じゃ入れない感じのとこでな。これ以上勉強しても結局入れないって結論に到ってしまって、あいつはそれが気に入らなくて別れた」
「ふーん、色々あったのね」
「まぁな。それであいつと違う高校に入って気づいたんだよ。あいつが自分にとってどれだけ心の支えになっていたか」
「そんなに好きだったのね~」
それもあるが一番の理由はあいつは俺の厨二病を知っていて、あいつも厨二病だった。毎日あいつと厨二病話をしてたことが楽しかった。ありのままの自分でいられた時だった。
別れてからより俺はゲームやアニメに没頭するようになったが学校はちゃんと行っていた。
「で、昔諦めずに頑張っていればなって後悔したから、さっき諦めずに一か八かで闇属性を使ったわけ。そして嫌な思い出を思い出して病んで、今それを人に説明してさらに病んでるわけ。これで満足?」
「満足満足、思ったより面白かったわ」
「人の失恋話で楽しむとか最悪だな」
「アルトの話だから楽しめるのよ」
「はぁ~あ~。昔に戻りたい。そうしたらルイナにこき使われることもなかっただろうに」
俺は深くため息をついた。
「アルトはさ、この世界に来て良かった?」
「何?俺がこんな世界なんか来るんじゃなかったとか思ったと思う?」
「だってそうじゃないの?私いっつもアルトに荷物持たせたり家事をさせたりして、意図的にここに来たわけじゃないのにこんなに手伝わせて」
こんな時だけ急に俺を心配しやがってな~。そんな震え声で言われたらなにもツッコめねぇじゃねーかよ。
「俺はな、この世界に来て良かったと思ってる。元の世界でやり残したこともあるけどこの世界が楽しいし、毎日奴隷にされてるけどルイナと話してると落ち着くよ。だから俺はこの世界にいたい」
あぁー、事実だけど恥ずかしいな~。いや事実だから恥ずかしいのか。
「そう。なら私もアルトがこの世界に来てくれて良かった」
「なんでも手伝ってくれるからか?」
「違うわよ!そんな意味じゃなくて」
「わかってるよ、冗談だって」
「はぁ~。本当にそういう意味じゃないのに」
ルイナがため息をついた後に何か小声で言ったが俺には聞き取れなかった。
「ん?なに?」
「な、なんでもないわよ!ほら、もう疲れも取れたころだし訓練に戻りましょう!」
そういうとルイナはベットから起き上がりハイプリースト達に礼を言って休憩所を出た。
「お、おいちょっと待てよ」
俺も休憩所を出てルイナを追った。
「おいアルトさっきのいい戦いだったな~」
「今度は俺と戦おうぜ!」
「俺とも戦ってくれよぉ!」
訓練所を歩いていると、ミラス団長の言ったとうり今度は多くの男の人から訓練相手を申し込まれるようになった。
ルイナのほうも女の人から訓練相手を申し込まれてたじろいでいる。
「あ、あの、こんなにたくさんの方から申し込まれるのはありがたいですけど、さすがにこの人数は」
「別に来週でも再来週でもいいのよ!とりあえずいつか戦いましょう!」
皆、戦闘狂かのように戦いたがる。
「こ~ら!高校生をみんなで集ってたかっていじめないの!」
副団長が来て辺りが静まり返った。さっきまで訓練をしていたのか体に少し傷がある。
「副団長、別にいじめてなんかないぜ!ただ戦ってくれって言ってるんだよ、なぁ?」
「そ、そうです、ね」
「そうであっても二人とも困ってるでしょ!訓練熱心なのはいいけど、一人ずつ申し込んで!」
『は~い』
するとみんなずこずこと引きさがっていった。
「ありがとうございます」
「いーえ。それと二人とももっとシャキッとしなさい!」
「シャキッと、ですか?」
「そうそう、さっき完全に高校生が怖い大人に絡まれてる感じだったもの」
ルーイン組のあいつらみたいな怖い大人でも弱かったらいいけどここの人全員強いしな~。
「まぁ、なんとかやってます」
「うん!じゃ訓練頑張ってね~」
副団長は休憩所の方へ向かって行った。
それから俺とルイナは近くの人に訓練を申し込んで戦っていった。
皆さっきは怖かったが優しい人ばかりだった。でも戦ってる最中はやっぱり怖い。
午後5時半。俺たちはこの時間に帰ることになっている。結局今日は訓練で一人も勝てなかった。
「一日お疲れ様。どうだったかな?」
俺とルイナの前にいる団長が言った。
「えーと、痛かったけど楽しかったです」
「あはは、騎士団に痛みは付き物だからね。ルイナちゃんは?」
「私は自分の実力が知れてよかったです」
ルイナは何人かに訓練で勝ったようだ。本人は偶々たまたまとは言っていたが。
「そうかい。じゃあこれからもやってきけそうかい?」
『はい!』
「うん、いい返事だね。じゃ、これからもよろしくね。また来週」
「さようなら~」
俺たちはテレポートでグリア町の役所の地下に帰ってきた。
「あぁ~、疲れた疲れた」
「でも楽しかった~。これが騎士団か~」
ルイナが目を輝かせてしみじみと感じている。
「この一週間で俺はどれだけ筋肉痛をするのか」
「そのうち慣れるわよ。ほら帰りましょ~」
そうして俺とルイナは役所を出て家に帰ってきた。
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