第十八話 模擬魔物


「ここよ」


 副団長についていくと木の壁に扉が一定間隔で何個か並んでいる場所にきた。


「なんですかこれ?」


「これは魔力で作った模擬魔物を倒していくレースよ」


「レース?ならスピード重視ですか?」


「出来ればね。でも今はとにかく敵を倒して進むことが目的かな」


「そんなに強いんですか?」


「まぁそれなりにね~。ということでアルト君とルイナちゃんには勝負をしてもらいまーす。早くゴールまで行ったほうが勝ち!距離は500メートル!空を飛んだらダメだよ」


『わかりました!』


 絶対ルイナには負けねぇ!ルイナの目を合わせると俺と同じ気持ちなのかルイナの目は熱く燃えていた。


「ねぇアルト、一つ賭けをしない?」


 ルイナがにやりと笑う。


「どんな?」


「勝ったほうが一つだけなんでも好きな命令を言える」


「いつも手伝いという名の奴隷の俺に対して、ルイナにその賭けのメリットはあるのか?」


「私はアルトに手伝いのさせてるだけなの!だから私はアルトが恥をかくような命令をするの」


「なるほどな。わかった」


「アルトはなにを命令したい?」


「あとで考えるさ」


 俺とルイナはそれぞれ扉の前に立った。


「それじゃあよーい、スタート~!」


 副団長の掛け声と同時に俺は扉を開ける。


 そこにはうねうねした緑色の見た目の模擬魔物がいる。狼のような形で所々体がギザギザしている模擬魔物が俺を見た瞬間うなりながら牙をむきとびかかってきた。


「うおっと」


 俺は刀を抜くと同時に炎属性の魔力を付与してそのまま刀を振った。が、斬れずに魔物は空中に打ち上がった。


「硬いな~」


 魔物は地面に着地するとすぐ俺に向かってくる。それを下から蹴り上げた。落ちてくるところを力いっぱい刀を振り上げた。すると魔物は煙のように消えてった。


「ちっ、一匹だけに手こずってるとルイナに先越されるな、本気でやるか」


 俺は体を少し前に倒すと、そのまま走った。元の世界の時よりもとても速く。


 俺が速いのも関わらず、魔物は俺を瞬時に感知して襲い掛かってくる。そこを走りながら思いっきり力を込めて刀で斬って倒すが、時々一発じゃ倒れない敵がいるが二発当てれば倒せる。


「あともうちょっとだな」


 最初はとっても小さく見えたゴールの壁が最初よりだいぶ大きく見える。

 すると下から大きい蟹のような魔物が出てきた。


「あぁ~、ボス的な感じか」


 普通の蟹と違ってハサミが4つある。俺のゲーム経験的にこいつは中ボスだろうな。てか地面から蟹が出るって、俺は狩りに来たわけじゃないぞ。


 蟹魔物は俺をハサミで叩き潰そうとしてくる。俺は横に転がりハサミは何もないとこに落ちたがそのまま横にずらしてきた。


「うおっ!」


 なんとかジャンプして避けた。下を見ると地面がえぐれている。何発かくらっても耐えられるくらいか。


俺は空中で後ろに風魔法を撃ち、蟹魔物の目の近くに来て斬ろうとすると、ハサミでガードされた。


「くっそ硬いな」


 俺は刀を引いて手を向け、炎魔法を撃った。


「焼き蟹にしてやる!」


 だが一切効いてない。というより当たってないように見える。


「ちっ!魔法を無効化するのか?」


 そう思ってるとハサミが俺に向かってきた。さっき叩きつけようとした時よりも速く。俺は手をクロスしてガードするが、吹き飛ばされ地面に叩きつけられてゴロゴロと転がる。


「ぐはぁ!」


 なぜだ?さっき感じた強さより攻撃力も素早さも上がっている。


 そうかこいつは俺の魔法を無効化したんじゃなく、魔力に変えて吸収したんだ。


 魔法は魔力で出来ている。魔力はガスや油のような物で、体にある魔力を出す際に火が一瞬ついてガスが爆発したり油が燃えるようなことで魔法というものになる。刀に付与している炎属性の魔力というのは刀にガスや油のようなものを入れて自動的に魔法と同じようなことをしてくれる。


 この蟹魔物たちは魔力で出来ている。ということはさっきの俺の魔法を魔力に戻し自分の力にしたのだ。


「そういうことか」


 あの感じだとハサミじゃないところも硬く斬れない。この蟹魔物は全身魔法が効かないチート野郎ということもないだろう。多分あのハサミだけ魔法が効かない。


「ならそのハサミ以外に魔法を当てればいいだけだ!」


 俺は立ち上がり刀を鞘に戻し蟹魔物に向かって走った。蟹魔物はすごい速さでハサミで叩き潰そうとしてくる。なんとか見切って横にかわす。蟹魔物は何度も俺に4個のハサミで攻撃を仕掛けるがかわされる。


 するとイラついたのか適当に自分の前の地面にハサミで攻撃し始めた。


「くっ、めんどくさいことしやがって」


 俺は上を見ながらハサミが落ちてくる場所を見切ってすれすれでかわす。


「デカいくせに速い動きするな~」


 俺はイライラしながら蟹魔物の真下にきた。


「だけどこれで終わりだぁ~!」


 俺は両手を出して炎魔法を多く魔力を使って撃った。


 蟹魔物は叫びながら炎魔法が当たっているところから消えていった。


「ふぅ、スッキリした」


 よし、あとはゴールするだけだ。


 俺はゴールの壁にある扉まで走った。ルイナはあの蟹野郎に勝てるのだろうか?そう思いながらゴールの扉を開けると


「はーい、私の勝ち~」


 そこには副団長と先にゴールしていたルイナがいた。


「アルト君お疲れ様~」


「あ、はい。ルイナお前あの蟹野郎に勝てたの⁉」


「あの最後のやつね。楽勝よ!」


「でもあいつのハサミは魔法を魔力にして吸収するのに魔導士のお前がどうやって倒したんだ?」


「簡単よ、あいつに膨大な魔力の氷魔法を撃って、一瞬では魔法を魔力に戻せないようしたの。それで魔力に戻ることなく魔法が当たって、氷漬けにして風魔法でバラバラにしたのよ」


「すげぇ」


「ふふん、私くらいになれば、その膨大な魔力も私にとっては少ししか使ってない感じなのよ」


「ルイナって本当にすごいんだな」


「なによ、今まで疑ってたの?」


「改めてわかったんだよ」


「ひとまず休憩入れますね、二人ともそこのベンチで休んでていいですよ~」


 そう言うと副団長はどこかへ行ってしまった。


「よいっしょと。あ~疲れた」


「あんなので疲れるなんてまだまだね~」


「そういうルイナはどうなんだよ。スタミナないのに500メートルどうやって行ったんだ?」


「左手で氷魔法で床を凍らせてさらに風魔法で自分の背中押して自動で進むようにして、右手で魔物を氷魔法で潰していったのよ」


 片手で同時に二つの属性の魔法が使えるってすごいな。らくし過ぎだろ。


「潰すって?」


「体貫こうと思ったけどうまく倒しきれなくて大きい氷の塊を叩きつけて潰したってこと」


「魔物をアリみたいに潰すなよ」


「あはははは」


 なぜかルイナはツボにハマったようだ。腹を抱えて笑っている。


「確かにアリみたいな感じだったわね」


 やっぱり笑ってるルイナはかわい、くない!


 俺は頭を振って思っていることを打ち消した。


「あははっ、あれっ、どうしたのアルト」


 ルイナが笑いを交えながら言った。


「いや何でもないよ。で、賭けはどうするんだ?」


「もちろんアルトに恥ずかしいことをやらせるわよ。まぁでも?ここでやらせると流石に周りの人からヤバい人と思われるかもだから?家に帰ってやらせるわよ」


「す、すごく楽しそうですね~」


「ふふん、今の私は女王の気分よ。アルトを見下せる。これがどんなに楽しいことか」


「わァ~、なんて心が汚いんダ~」


「アルトに汚染されたのよ!あと棒読みやめて!」


「きァ~、ルイナちゃんこワ~い」


「ぶっ潰す!」


 ルイナは立ち上がって少し離れて俺に手を向けた。ルイナの手の前に一瞬で大きい氷の塊ができる。


「またか」


 どうしてこいつは怒るとここまでするのか。俺はそう思いながら立ち上がり刀を抜いた。


「はぁ!」


 ルイナの手から氷の塊が撃たれる。その瞬間なにかがルイナの氷の塊を打ち抜いた。そのなにかが打たれた方向を見ると弓を持っている副団長がいた。


「こ~ら!喧嘩しないの!」


「す、すみません」


 ルイナが謝ると副団長の弓が消えていった。


「あれ?弓が」


「あぁ、これはね魔力でできた弓なの」


「だから消えたのか。なら副団長さんは射手しゃしゅなんですか?」


「そのとうり!魔法射手っていうジョブよ」


 確かにさっきルイナの氷魔法を打ち抜いた矢も光線のようなものだったな。


「で、休憩時間だったんだけどもうお昼だからお昼ご飯にしまーす」


 すると副団長は両手の手のひらを上にするとそこに弁当箱が現れた。


「今のはテレポート?」


「そうだよ~、はいあげる」


「あ、ありがとうございます」


 副団長の分も送られてきた。


「じゃ食べようか」


 俺とルイナと団長はベンチに座って弁当箱を開けた。


「ん~、美味しいですね。どうやったらこんなに美味しくなるんだろ?」


 ルイナがもぐもぐ食べながら考えている。


「今のままでもルイナの料理は美味しいけどな~」


「なっ!」


 ルイナは顔を真っ赤にしてうつむいて黙ってしまった。


「ん?二人は付き合ってたりするの?」


「つきっ!」


「あ」


 なぜ食べるときはこう聞かれるんだ?


「ちょ、ちょっと副団長さんいいですか?」


「え?どうしたの?」


 俺は弁当箱をベンチに置き、副団長の手を引いてルイナから少し離れた。


「あの、ルイナは恋愛に奥手で恋愛系のこと言われると壊れるんですよ」


「あら、そうなの?ごめんね」


「団の人にもすみませんけど言っておいてほしいです」


「わかったわ」


 俺と副団長はベンチに戻った。


「あの!私とバカアルトが付き合ってるとかあるわけないですから!」


「うん、そうよね。あるわけないわよね~、大丈夫!わかったわ!」


「あ、え、はい」


 すごいな。あのバカルイナをすぐに落ち着かせるなんて。



 そうして俺たちは昼ご飯を食べ終わった。


「さぁ!お腹も膨れたとこだし訓練再開!」


 食べ終わった弁当箱を副団長に渡すとテレポートしていった。


「次は何するんです?」


「えっと、もう大体の訓練は教えたからあとは自由訓練よ」


「自由訓練か」


「サボったりしたらダメよ。対人の訓練は誰か誘ってやってね」


『わかりました』

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