第二章 騎士団

第十七話 騎士団の資格

 ここはグリア町の役所、の秘密の地下の部屋で、エスタル国の町にテレポートできる場所だ。王国関係の許可書がないと入れないようになっている。


 日曜日の8時半、今から俺とルイナは騎士訓練場にテレポートしようとしている。


「まさか役所にこんなところがあったなんてな」


 ルイナを見ると俺をギロッと睨んでいる。昨日からずっとこんな感じだ。


「ほらさっさと行くわよ」


「はいはい」


 俺たちは床にある魔法陣の真ん中に立った。そして詠唱魔法を唱える。


『我をエスタル国騎士訓練場へ導け』


 すると魔法陣から眩い光が出てあたり一面を光に変えた。


 そして光が引いてゆくとそこは青空の下、たくさんの人がいる。


「着いたのか?」


「そうみたいね」


 辺りを見渡すと、がたいのいい男がこちらに気づき近寄ってきた。


「おぉ、アルトとルイナだな」


「はい」


「話は聞いてる、ついてこい」


 見た目どうりのゴツイ声の男についていくと


「団長来ましたぜ」


「おっ、早いねぇ」


 その団長と呼ばれた男はいかにも騎士という格好で、スリムで若くイケメンだ。


「あなたが団長様ですか?」


「第二騎士団の中でだけどね、僕の名前はミラス・ライト・ルシフだ。よろしくアルト君、ルイナちゃん」


『よろしくお願いします』


 俺とルイナはミラス団長と握手した。


「よし、これから君たちには第二騎士団に入ってもらう。そして今から訓練をしてもらうよ」


「はい」


「アルト君はこちらへ」


「ルイナちゃんはこっち」


 俺はミラス団長についていき、ルイナは団長の隣にいた女性についていった。


「ここら辺でいいかな」


 ミラス団長がそういうと足を止めた。


「今からするのは、人と人が戦う訓練だ」


 周りを見ると色々な人が戦っている。


「みなさん剣士系が多いですね」


「このエリアは剣士系のジョブの人が戦う場所だからね」


「てことはルイナは今魔導師系の?」


「ああ、そうだよ」


 団長は俺から少し離れると


「そして今からアルト君と戦うのはこの僕だ」


「ミラス団長と俺がですか⁉」


「そうだよ」


 いきなり団長と戦うとか絶対負けるだろ!


「アルト君は国王様から特別に騎士団に入ったがそれなりに強くないといけない。だからここで試させてもらうよ、戦い方は君のやり方でいい」


「わかりました」


 俺は刀を鞘から抜きながら炎属性魔力を付与して構えた。


「バリス刀か、マニアックだね」


「これが好きなんで」


「準備はいいかい?」


「はい!」


 ミラス団長は両手で腰の二つの剣の柄を持った。二刀流か、さぁどうくる?


 その瞬間団長がいつの間にか俺の目の前で飛びながら回って剣を振ろうとしている。俺はギリギリで顔を後ろに引いて剣を避けた。


 あっぶね、あともうちょっとで俺の口が裂けるとこだった。回転斬りか。


 団長は足がつくと回ったまましゃがんで俺の足を狙おうとする。それを俺はバク転をしてかわした。


 ちっ、回られると刀と剣をぶつけ合うこともできない。


 団長は滑り込むように俺に距離を詰めてくる。俺は前に高く飛んでゴブリンと戦ったときのように手を団長に向け、炎魔法を撃つ。


「なっ!」


 団長は時々片足をつけながらも空中で縦に回り剣で魔法を打ち消している。


 すごい人だな。これがダメなら!


 俺は炎魔法を止め、剣を構えた。団長はまだ縦に回っている。


 団長を上から斬る、と見せかけて斬るタイミングで横に風魔法を撃ち団長の横に着地した。


 今なら横ががら空きだ!


 俺が団長の腹、もしくは腰に斬りかかったとき、団長が俺の上を飛んだ。


 これは先生や俺が使った相手に予想外の動きを見せて判断力を鈍らせる方法。


 俺は後ろを向きつつ少し下がった。だがそこには団長の姿が見えない。


 どこに行ったんだ⁉


 すると後ろから背中を連続で斬られた。


「ぐぁ!」


 すぐさま前に避け後ろを振り返る。そこには止まって剣を構えた団長がいる。


 なるほど、後ろに行ってすぐまた前に戻ったのか。


 でも勝負はまだ終わってない。なんとか一発でも当てたい。俺は色々と考えたすえ、刀の切っ先を下にした。


「降参かい?」


「いえ違います」


 団長は再び俺に回転斬りを仕掛ける。団長の剣はすごい力で俺の刀に何度も攻撃をする。


 俺はただそれに耐えていた。


 今だ!


 俺は足を団長の足に掛けバランスを崩した。


「なっ!」


 俺はがら空きになった団長を斬った。


「うっ!」


 団長はすぐに下がって息を整えた。すると


「これで終わりだ、よくやったね」


 すると周りから歓声が湧いた。いつの間にか、みな訓練を止め俺と団長の戦いを見ていた。


「うおー!やったなアルト!」


「あの団長に一発食らわせたな!」


 止まない歓声の中、ミラス団長が近づいてきた。


「いや~、最初はただの子供かと思っていたけどアルト君強いね」


「いえいえ俺なんてまだまだですよ」


「そんなことないよ、実際7割本気の僕に一発当てたんだから。最初の一発がかわせないくらいだったらどうしようかと思ったよ」


「ちょっと危なかったですけどね」


 マジで殺されるかと思ったし。


「まぁとにかく君はちゃんと騎士団の仲間入りだ」


「ありがとうございます!」


 そしてひとまず俺と団長は休憩所に行った。



「お疲れ様です。回復魔法をおかけします」


 そこでは何個かベットが用意されていた。俺はうつ伏せになり背中の傷を癒してもらっている。


「はぁ~、気持ちいい~」


「そうだろう、ハイプリーストの回復魔法は最高だからね」


 隣のベットにいる団長が言う。


「どのくらいの時間で治るんですか?」


「アルトさんはあと5分くらいでしょう。ミラス団長はあと10分ほどですね。ミラス団長は傷口のやけどがひどく、アルトさんは細かく深い傷が多いのですが、私たちにハイプリーストにお任せください」


 ルーイン組にやられたときルイナは1時間かけてなんとか傷をふさいだんだよな。それもハイプリーストに頼めば20分くらいで完全回復するんだろうか。


 ふと聞き覚えのある声が聞こえた。


「あぁ~、疲れた~」


 俺はうつ伏せのまま顔を後ろに向けるとルイナがいた。


「よぉ、ルイナ」


 俺の声に気づきこちらを向くと、顔にかすれ傷が何個かできている。


「アルトじゃない、どしたのその背中」


「団長と勝負して斬られた。お前の顔はどうしたんだ?」


「私も副団長と勝負して魔法がかすったのよ」


「それで休憩所にきたのか」


 ルイナの隣にはさっきルイナをつれて行った女性がいる。この人は体に傷を負っている。多分この人が副団長だったのだろう。


「で、ちゃんと認めてもらえたか?」


「もっちろんよ」


「やられました」


 副団長がとほほという顔する。


「僕もアルト君にやられたよ、中々頭を使う子でね」


「団長も結構くらってますね。でも団長くるくるするだけなんで隙を突かれただけなんじゃ」


「多分あの感じだとアルト君は炎が得意属性なのかい?」


 団長が副団長の言葉を無視して聞いてきた。


「あ、はい、そうです」


「あれを何発もくらったらひとたまりもないね」


 ルイナと副団長は他のベットに横になった。


「魔王の幹部倒せますかね」


「君のあの刀を30000発くらい当てたら倒せるかもね。当たったらの話だけど」


「30000⁉」


 団長でも倒すことが困難なら、俺は団長の本気のスピードに追い付けないはず。ならば幹部に当てることさえできないだろう。


「もっと強くならないとな~」


「アルト君が高校を卒業する頃にはかなりの戦力になってるだろうね」


「高校は行ってないんですけどね」


「そうなのかい?」


「ルイナは行ってますけど、俺は高校を夏休み前に辞めました」


「どうして辞めたんだい?」


「辞めざるをえなくなったんです」


「へー、大変だね」


「まぁ今楽しいからいいですけど」


 話しているうちに回復が終わったようだ。


「ふ~、すっかり治ったな~」


 俺は立ち上がって体をほぐした。


「いや~幸せな気分」


 ルイナが近くに寄ってきた。


「お前はもう終わったのか?」


「30秒で終わったわよ」


「はっや!」


「かすり傷くらいならすぐ終わるんだって。だからアルトが終わるまでなんもないけど回復魔法かけてもらってたの」


「ふーん。で、俺たちは次はなにすればいいんだ?」


「なら団長の代わりに私についてきて」


「あ、はい!」


 俺たちはバスガイドのように手をあげる副団長についていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る