第十五話 国王様
次の日の朝
「うっ、体中が筋肉痛になっている」
痛がりながらも服を着替えてリビングに出るといつもどうりルイナが朝食を作っている。
「おはよ~、大丈夫?」
「おは~、疲れはないけど、筋肉痛がやばい」
「筋肉痛だけでよかったじゃない、ほら運んで」
皿を持つだけでも手がプルプルする。
『いただきます』
箸を持っても手がプルプルするので食べるだけでも一苦労だった。
「仕方ないわね、今日は私が片付けするわ」
「すまんな」
俺はソファーに座った。ルイナは皿を運び、洗い、棚に戻す。それだけで30秒くらいしか経っていない。
「さすがだな」
「何年もやってるからね~。それで今日は学校行ける?」
「無理かもな」
「わかった、ヘルサ先生に言っておくわ」
「ありがとな」
今日は家で休んでいるか。そう思ったとき、ドアのノックする音が聞こえた。
「はーい」
ルイナが返事をしてドアを開けた。そこには鎧を被った一人の兵士がいた。
「すみません、私はエスタル国第36兵団所属の者です」
「えと、今日はどういったご用件で」
ルイナは少し焦ってるようだ。そりゃそうだな、元の世界でも警察が家に来たらちょっとビビるもんな。
「ルイナ様でいらっしゃいますね」
「は、はい」
「アルト様はいらっしゃいますでしょうか」
「ここにいます」
俺はたじろぎながらルイナと並んだ。
「お二人にフォーリア国王様が直々にお呼びです。お城までご同行願いします」
『え?ええぇぇぇ~⁉』
休むことは無理そうだ。
「なぜ私とアルトが国王様に呼ばれたんですか⁉」
「私はなにも聞いておらず、ただお二人を連れてこいと」
ルイナの目はグルグル回っている。
「わかりました、行きます。アルトもいいわよね」
「まぁ、ルイナが言うなら」
「ありがとうございます。では私の肩に手を置いてください」
そういうと兵士さんは背中を向ける。俺とルイナは不思議そうにしながら兵士さんの肩に手を置いた。すると急に視界が変わった。
「着きました」
そこには俺たちの前にさっきまでなかった立派なお城がある。
「へ?」
「い、今のはテレポート?」
「そうです。どうぞお入りください」
ルイナもとてもビックリしている。
俺たちは城の中に案内してもらって王座の部屋の前まで来た。中はすごい綺麗で高価そうな物がたくさん置いてあった。
「この部屋に国王様がいられます、ここからはお二人で行ってもらうことになります」
「は、はい」
俺とルイナは目を合わせ、覚悟を決めてドアを開けた。
そこには玉座に、いかにも王様という服を着て、白く長い髭の年老いた老人が一人いた。俺たちは赤いカーペットの上を少し歩いて立ち止まった。
「君たちがルイナさんとアルト君か」
玉座の老人が話しかけてきた。俺たちは背筋をピンと伸ばした。
「さ、左様でございます」
ルイナがこんなに丁寧で澄ませた声を聞いたのは初めてだな。
「わしはエスタル国国王フォーリア・エスタル・ゼリスじゃ」
「存じております」
やっぱりこの人が国王か。
「ふむ、今日わしがなぜそなたたちを呼んだかというと、お礼がしたかったからじゃ」
「え、あの俺たちはなにもお礼をされるようなことはしていないのですが」
「バカ!俺って言わないの!」
ちょっと気が緩んだ俺にルイナがこっちを向いて怒鳴る。
「ふぉふぉふぉ、別に構わないぞ。説明をするとの、昨日子供を二人助けたであろう?」
「はい」
「その子供はわしの孫なんじゃよ」
「そ、そうだったのですね」
「でもなぜ国王様のお孫様がグリア町に?」
「もうちょっと丁寧に言いなさいよ!」
「それはの、わしが国王になる前はグリア町に住んでおったのじゃ」
「はぁ」
ルイナは初めて聞いたという顔をしている。
「それでわしの妻が昨日孫におつかいをさせてはどうだと言っての、わしは反対だったのじゃが、妻は厳しくての。そうしてグリア町に行かせたのだが、そこでルーイン組に会うとはの」
「なるほど」
それで俺たちが助けたというわけか。
「でも、お礼なんていらないですよ」
確かにお金など貰ってもルイナはたくさん持っている。でもどうせなら貰っときましょうよルイナさん。
「うむ、君たちは実に素晴らしい心の持ち主じゃ、本当にありがとう」
「いえいえ」
だんだんルイナも言葉があまり丁寧じゃなくなってきたぞ。
「サリス、サリア入ってきなさい」
国王様がそういうと玉座の近くのドアから二人の子供が入ってきた。
「あ!」
昨日助けた子供、国王様の孫だ。あのときは一般的な服だったが、今は綺麗なスーツ、ドレスをきている。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、助けてくれてありがとうございます」
「そして何も言わず帰っちゃってごめんなさい」
二人は頭を下げる。
「いやいや!二人は何も悪くないのよ」
ルイナがそう言っても二人はまだ頭を下げている。俺はそんな二人に近寄ってしゃがんだ。
「サリス君とサリアちゃん、だっけ?」
「え、はい」
「二人の夢は何かな?」
二人は顔を上げキョトンとした顔で答える。
「僕はおじいちゃんみたいな国王になる」
「私はなんでも作れる料理人になりたい」
「そうかそうか、その夢が叶ったらいつか人に謝らないといけないときがあると思うんだ。そのとき二人は相手が許しても自分は下を向いて謝り続けたい?」
「いや、今度からそうならないように努力する!」
「ふふっ、よくわかってるね。だからもう謝らなくていいんだよ」
俺は優しく微笑んだ。
『ありがとうお兄ちゃん』
二人は俺に抱き着いた。俺はそっと抱き返す。ちょっと筋肉痛で痛いが。
少し経つと離れてルイナにも抱き着いた。
『お姉ちゃんもありがとう』
「どういたしまして」
ルイナも抱き返す。また少し経つと元の場所に戻った。
「わしにはハグしてくれんのか?」
「おじいちゃんは何もしてないでしょ!」
すると国王様はしょんぼりした。
「さっきお礼はいらないって言ってたけどならこれあげる」
そういうと二人の手からポンとリンゴが一個ずつ出てきた。
「これは」
「昨日おつかいで買ったの」
「でも頑張って買ったやつじゃ」
「お礼だよ!」
こんな可愛い顔されては受け取らないわけにはいかないな。
「ありがとう」
「お姉ちゃんも」
「はいはい、ありがとうね」
「わしには」
「あげない!」
国王様はすごい孫愛だな。
「じゃあ俺たちはこれで」
俺とルイナが部屋を出ようとすると
「おおっと、ちょっと待ってくれ」
「どうしました?」
「君たちは騎士団に入るのか?」
「ええそうですけど」
「ならほんのお礼とは言ってはなんだが一時的に騎士団へ加入させようではないか」
「えぇ!本当ですか⁉」
ルイナが食いつく。
「ああ、君たちは高校もあるだろうから毎日は働かず、職場体験という形にしたいと思うのだがどうだ?」
「それで大丈夫です!」
「アルト君もそれでいいかね?」
「いいですけど」
「うむ、決まりじゃの」
「やったぁ~、ついに私も騎士団だ~」
ルイナが跳ね上がって喜んでいる。
「正式な加入は高校を卒業してからじゃ」
「わかりました!」
「詳しい内容は後日手紙で伝えよう、それでは」
「はい!ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
俺とルイナは国王とサリス君とサリアちゃんに手を振って部屋を出て、兵士さんのテレポートで家に帰ってきた。
そして二人きりになると、
「やったぁ~!」
ルイナが大声で叫んだ。
「そんなに嬉しいのか」
「当たり前でしょ!これで勉強しなくても騎士団に入れるのよ⁉」
そこかよ。
「は~、これから忙しくなりそうだな」
「そうね」
ここから俺の壮大で楽しく過酷な異世界人生が始まった。
「そういえば学校って」
「まぁ大丈夫でしょ」
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