第十四話 ルーイン組

 俺とルイナは今、下校中だ。


「ぐぅ~!う、腕が」


 そしてルイナの鞄を持っている。半日ほど、刀を振っていて筋肉痛なのに。それと飛んでいると物が重くなるので普通より辛い。


「はー、楽ちん楽ちん。下校でなにも持たないって爽快感あるわ~」


「腕が壊れそうなので自分で持ってくれませんか?」


「私のお手伝いがただで住む条件よ、それができないなら出て行ってもらっても構わないけど?」


「よ、喜んでお持ちします」


 奴隷になるために異世界来たんじゃねーんだよ。そう思う気持ちを抑えて鞄を持ち直した。


「アルトは今日刀に魔力を付与したらしいけど何属性の魔力を使ったの?」


「炎だけど」


「闇属性はやってないの?」


「闇魔法を少しだけ制御出来るようになったけど、まだ危ないからやらなかったよ」


「そうなのね。闇属性を付与したらどのくらいの威力なのかと思ったんだけど、できる人見たことないし聞いたこともないのよね」


「闇が得意属性の人で魔法剣士やってる人いないの?」


「いないと思うわ。闇が得意属性で有名な人は多分格闘家よ」


「その人ってなんで有名なの?」


「最悪な有名人よ。ここら辺の町の暴走族、4代目ルーイン組組長ガルア・ダル・グレストよ」


「ルイナが前言っていた闇魔法を使う人は悪い人が多いってやつか?」


「そうよ、あいつが組長になってから闇魔法を使う悪い人が多くなったのよ」


「でも闇魔法は闇が得意属性の人じゃないとそもそも扱いずらいんじゃ?」


 俺でさえまだちゃんと扱えてないのに。


「扱いずらくても適当に撃ち放つことはできるでしょうよ」


「危ない奴らだな」


「そりゃあ暴走族なんだから」


 絶対に会いたくないな~。


 そう思ったその瞬間


 大きな爆発音が下から聞こえた。


「なにっ⁉」


「なんだ⁉」


 俺とルイナが同時に言い、音のなったほうを見る。商店街の裏路地からコンクリートの砂煙が舞っている。


「行くわよ!」


「ちょ、ルイナ!」


 ルイナは一直線にその場所に向かう。


「仕方ねぇな~」


 俺も遅れて向かった。


 地面に着くと、そこには全体的に黒く派手な柄の服を着た男が二人いた。その二人の前に壁に倒れこんでいる小学生くらいの男の子と女の子がいる。


「ちょっとあんたたちなにやってんの!」


 俺の斜め前にいるルイナが怒鳴る。


「あぁ?なんだてめぇ」


「なにやってんのって聞いてんのよ!」


「このガキどもが俺らに生意気な口を叩くから、少し痛めつけようと思ってたんだが避けられちまったとこだよ」


 見ると子供二人が倒れこんでいる上の壁が丸く大きく削られている。


「あんたたちルーイン組?」


「だったらどうする?」


 こいつらがか。噂をすればだな。さっそく会いたくないやつナンバーワンに会ってしまったが、ルイナさん、ここは逃げるのが賢明な気もするのですが?


「こんな子供相手に闇魔法を撃ったの⁉」


「子供だから何なんだよ、親に泣きつけばすぐ治んだろ」


「っ!あんたたちねぇ!」


 そう言ってルイナは二人に向かって手を向けると、自分を落ち着かせるように深呼吸をした。


「あんたたち、覚悟しなさい!」


「あぁ⁉やんのかガキィ~!」


 やっぱりこうなりますよね。


「仕方ない俺もやるか」


「戦える?」


 ルイナは二人から目を逸らさずに俺に言った。


「子供がいるし、やるしかないだろ」


「そうね、相手は見た感じだと魔導師よ。気を付けてね」


「ああ」


「まぁ念には念をだ」


 ルーイン組の男がそう言うと後ろからまた二人魔導師の男が来た。あいつらの仲間か。


「くっ、アルト後ろは任せたわよ」


「了解」


 俺は鞄を下ろし、後ろに体を向けて筋肉痛を我慢して刀を抜き炎属性の魔力を付与して構えた。


「4対2で勝てると思ってんのか?オラァッ!」


 4人ともこちらに手を向け、闇魔法を撃った。


『はぁ!』


 俺は剣を振り、ルイナは氷魔法を撃った。


 刀から少し衝撃がきたが闇魔法は煙のように消えていった。後ろを見るとルイナの氷魔法は闇魔法を包み込み凍って地面に落ち、割れていた。


「なんだとっ⁉」


 俺たちはすぐさま攻撃を仕掛けた。俺は二人に向かって走る。


「ひぃ!」


 二人は再び闇魔法を撃つが俺は走りながら斬り裂く。


 目の前のところで俺は飛び、後ろから殺さない程度に背中を斬った。


『ぐはぁ~』


 刀に血が付くが蒸発していった。二人は叫びながら倒れる。ゴブリンが人型だったせいか人を斬るということにもあまりためらわなかった。


 正当防衛だしな。これが元の世界だとただのサイコパスだな。いや俺もしかしてサイコパス?


 ルイナのほうは氷魔法を撃って、足をダメージを与え、倒れたところを氷で服を抑えて拘束している。


「おーい、こっちも抑えてくれ」


「あ、おっけ~、よくやったわね!」


 そういうとルイナは氷で拘束した。


「サンキュー」


「さぁどうしようかしらこの人たち」


「警察とかないの?」


「なにそれ」


「悪い人を捕まえるとこ」


「あぁ、刑務所ね」


 警察はなくて刑務所はあるのか。


「兵士さんが近くにいればいいけど、だれか通報してるかしら」


 警察じゃなくて兵士なんだな。


「これだけ大きい音出したんだし誰か通報してるだろ」


 そういえば子供たちは


 気づいて見てみると変わらず倒れている。


「大丈夫だった?」


「う、うん」


 男の子が言った。


「立ち上がれる?」


 ルイナが両手を差し出すと二人とも握って立ち上がった。


「助けてくれてありがとう~」


 女の子はそういうと泣きながらルイナにしがみついた。


「よしよし、もう大丈夫だよ~」


 ルイナは女の子の頭をなでる。しばらくすると泣き止み男の子のところに戻った。


「一旦この子たちと安全なとこに移動しようか」


「そうね」


 俺とルイナは二人を挟んで手を握って商店街に出ようとした。ふと男の子が袋を持っているのに気付いた。中にはリンゴが3つほど入っている。


「おつかいしてたの?」


「そうなの、僕たちね――」


 そのとき後ろから嫌な気配がした。

 振り向くとルイナがやっつけた男二人が手を前に出している。それは子供二人に向いている。


「まずい!」


 そう思った時には遅かった。男二人の手から闇魔法が撃たれる。刀を抜く時間もない。


 俺はかばって闇魔法を体で受けてしまった。


「ぐぁっ」


 俺の意識はそこでなくなった。





「あ…ると……」


 暗闇の中で誰かが叫んでいるのが聞こえる。


「ある…と……」



 あるとってなんだ?あると、アルと、アルト。


 アルト、そう俺の名前だ……。





 目覚めると俺はいつものベットにいた。


 机にあるルイナに買って貰ったデジタル時計を見ると、19時27分と書いてある。


「そういえば、俺」


 自分が眠る前のことを思い出す。


「あの、子供は……」


 あの後どうなったのだろう。そう思っていると、


「あ、起きた!調子はどう?」


 ルイナが部屋に入ってきた。


「ちょっとお腹がヒリヒリする」


「そりゃあ闇魔法もろにくらったんだもの」


 ルイナは椅子に座った。


「あの後どうなったんだ?」


「アルトが倒れたあと、あいつらはすぐに兵士さんが来て捕まって、私はアルトの傷を回復魔法と商店街にあった薬草で治してここまで連れてきた。わかった?」


 ルイナは落ち着いた声で話す。


「それはわかったけど子供たちは?」


「それがね、私が商店街で薬草を買っている間にどっか行っちゃて」


「そうか」


 またいつか会えるといいけど。


「腹減ったな」


「あ、ご飯できてるわよ」


 俺がベットから出ようとすると


「あれっ?体が動かねぇ」


「多分今日だけで体動かしすぎたから反動で動かないんじゃ」


「マジか」


 そんなことあるんだな。力の入れ方を忘れた感じだ。


「腹減ってるのにこれじゃあ食えねぇな」


「なら私が食べさせてあげる」


「え~」


「なんで嫌そうな顔するのよ!別に私がアルトに食べさせる義務なんてないのよ?」


「仕方ない、このままだと飢え死にそうだし」


 ルイナは飽きれた顔をしながら牛米うしごめと言われる牛丼を持ってきた。


「夜に牛米食べるってあんまりないな」


「簡単に作れるのがこれしかなかったから」


 俺は何とか上半身を起こした。


「ほら、あーん」


 ルイナが箸で牛米をすくい手皿を添えて俺の口に近づける。

 

 仕方ないと言ってもやっぱり恥ずかしいな。


「恥ずかしがってるわね~」


「うるせーな」


 俺は恥ずかしながらも箸にかぶりついた。


「んっ!めっちゃうまい」


「そう?ありがと」


 昼に食べた弁当よりおいしい。本当に疲れた後の飯はうまいってことがよくわかる。


 ルイナは箸を戻して再び俺の口に牛米を持ってくる。それをまた食べる。それを続けて完食した。


「ふぅ~、もうお腹一杯」


 俺は再び横になった。


「餌を食べる獣みたいだったわね」

「けもの……ね」


 俺はまた寝てしまった。


「お疲れ様」


 そう言ってルイナは優しく俺の頭をなでた。

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