第七話 お別れとあいさつ

 皿を洗いながら窓を見てみると外は真っ暗だった。


「そういえばこの世界にも季節ってあるの?」


 ソファーに寝っ転がって魔法で遊んでるルイナに聞いた。


「あるわよ、今は夏」


 日本と一緒だな。


「あとこの世界って24時間?」

「そうわよー、そこに時計があるでしょ?」


 ルイナが指をさしたころにはよくあるデジタル時計がタンスの上にあった。魔力のメーターも表示されている。


 ここは日本のようなところなのかも知れないな。


 全ての皿を洗ったが乾かす場所がない。


「おーいルイナ、これってどうすればいいんだ?」

「あ、アルトは魔法まだ使えないもんね」


 そういうとルイナは風魔法で一気に皿を乾かした。


「おー、さっすが」

「アルトも早くこれくらい出来るようになりなさいよ」

「もちろんさ」


 そうしてそのまま食器棚に戻していった。


「これでオッケーね」

「終わった終わったぁー」

「お風呂入れるけどどっちが先に入る?」

「俺からのほうがいいじゃない?」

「なんで?」

「だってお前が入った後の風呂入るって」

「あぁー、その点は大丈夫、風呂のお湯入れ替えるから。炎と水魔法を混ぜ合わせればすぐ沸くからね」

「そうか」

「まぁアルトが私の入った残り湯にどうしても入りたい変態さんなら入れ替えないけど~」

「なわけあるか」

「本当かしら?」

「で、どっちが先に入るの?」

「私から入るわ。今日の疲れを早く癒したいし」

「わかった」


 ルイナは風呂場に行き、俺はソファーに座った。


「暇だな」


 暇なときはゲームするか、アニメを見るか、模造刀を持って厨二病妄想をするかしてたからな。こうもなにもすることがないっていうのも久しぶりだな。


「魔法の練習でもしてみるか」


 俺は食器棚からスプーンを取り出し机に置いた。


「えっと、下から風で押す感じ~」


 するとハンカチを浮かせたときのようにスプーンが浮き、また俺の肩くらいまで上げた。


「おっ、できた!」


 そういえば俺の得意属性は炎と闇だったな。炎は、まだ慣れてないから室内ではやめておくか。闇は、使い方がわからないな。二つとも明日試してみよう。


「とりあえず今は風魔法を練習するか」


 俺はスプーンを遠くにしたり上にやったり、回転させたりした。

 しばらく練習しているとパジャマ姿のルイナが来た。

 パジャマ姿のルイナもまた可愛い、ような。


「ふぃ~、お風呂あがったわよー、何してんの~?」

「風魔法の練習だよ」

「ふーん、結構できてんじゃない」

「ふっふっふ、俺の才能はすごいだろ」

「普通よ!ふ・つ・う!いいからお風呂入ってきなさいよ!」

「はいはーい」


 俺はスプーンと食器棚に戻して部屋から今日買った下着とパジャマを持って風呂場に向かった。



「本当に入れ替えたんだろうな」


 そんな疑問を持ちながらも風呂に浸かった。


「ふ~」


 少し熱いが気持ちいい。今日の疲れがとれる。


 ネットを見ていただけで異世界に行くなんてな。というかあっちの世界は今どうなっているんだろう。元の世界に帰れるのか、そう思うがこの世界も結構楽しい。厨二病の俺には魔法も剣も使えるなんて夢みたいだ。


「まるでゲームの世界に行ったみたいだな」


 そう言って俺は体を洗い流しもう一度風呂に浸かって体を温めて出た。そして下着とパジャマを着てリビングに戻った。


「おかえり~」

「お~う」


 ただ風呂に入っただけだけど。


「湯加減どうだった?」

「いい感じだったよ」

「そう。ならこれを飲むわよ」

「ん?なにこれ、ジュース?って酒⁉」

「そうよ」

「でも未成年は飲んじゃいけないのでは?」

「大丈夫よ、未成年でも飲めるお酒だから。ちなみに16歳からだけど」


 確かに『16歳以上』と書いてある。


「なら飲んでみる」

「うん!うん!」

「あとこれって酔うの?」


 聞くのが遅かったのかルイナは缶をあけ、ぐびぐび飲んでいた。


「っは~、ん?らにぃ~」

「お、お前まさか、酔ったのか⁉」

「みゃーしゅこしらけね~」


 完全に酔ってやがる。酒の詳細を見てみるとアルコール3%と書いてある。


「お前お酒弱いんだな」

「んにゃわけにゃいでしょぉ~」


 今めっちゃ酔ってるぞ。


「まぁいいや、俺も飲んでみよ」


 缶をあけ一口飲んでみると


「んっ!おいしい」

「そーでしょそーでしょ」


 それから俺は2缶を少しずつ飲んでいったが、ルイナは一人で一気に6缶飲んだ。


「すごいなこいつ、こんなに飲んで吐かないって」

「私くらいににゃればこぉのくらいらくしぉー……」


 そういうと缶を握ったまま寝てしまった。


「ちょ、おい」


 体を揺さぶっても起きない。仕方ないベットまで運ぶか。


「おーい、ベットまでおぶって運ぶから背中に乗ってくれ」


 すると無言で俺の背中に乗った。少しだけ起きてるようだ。


「よっこいしょ」


 俺はルイナをおんぶしてベットまで歩いた。


「重たいな」


 本人が聞いたら怒りそうだが、今はそれどころじゃない。ルイナの豊満な胸が背中に当たっているのがわかる。


「くっ、恥ずかしいことをさせるな!」


 俺は急ぎ足でルイナの部屋のベットで寝かせた。


「まだまだ飲めるぅ~……」

「こんな恥ずかしい思いをしたってのにこいつは」


 俺はルイナのおでこにデコピンをした。本当は殴りたかったけど。


「今日はこのくらいで許してやるよ」


 俺はルイナに毛布を被せた。

 リビングに戻ると机の上に酒の缶が散らばっていた。それをゴミ箱にいれ、電気を切って自分の部屋のベットに横になった。


「おやすみ」


 それは元の世界のお別れと新しい世界へのあいさつの気持ちがこもっていた。

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