第六話 本能

「さぁ、そろそろ帰って晩御飯を作らないと」

「なら帰るか」


俺たちは家に帰える道を歩いていく。


「ルイナのジョブはなんなの?」

「私は魔導士ということになるかな?」

「『なるかな』って正確じゃないの?」

「基本は魔導士だけど大人になってからは色々なジョブパターンがあるのよ」

「例えば?」

「私がなりたいのは白魔導師」

「ふーん」

「高校生の時点でもう大人のジョブを持つ試験を受ける人いるけどね。そしてその試験を受けたのがこの私よ!」

「そうなのか!それで受かったのか?」

「ふふん、バッチリ受かったわよ!」

「すごいな、お前頭悪そうなのに」

「失礼ね!」

「ごめんって」

「はぁー。それで私は白魔導師となったけど結局は大人になるまで使えないのよ。だから『なるかな』って言ったの」

「ならなんで試験受けたんだよ」

「先に白魔導師になること確定したほうが安心するでしょ?」

「ルイナらしいな、てことはお前結構優等生?」

「そうよ!学校でも1,2位を争うくらいなのよ?もっと敬いなさい」

「さすがルイナ様、カッコいいー」

「アルトは私をいらだたせる天才なの⁉」


 こっちが言いてぇよ。



 そんな話をしているうちに家に着いた。


「たっだいまー!」

「う、腕が痛い」

「食べ物はそこに置いといて、服は自分の部屋にしまったりしといてね」

「はいはーい」


 ルイナが顎で指したところには


「これは、冷蔵庫?」

「冷蔵庫は知ってるんだ」


 ということは電気はこの世界でも使ってるのか?俺は食べ物だけ冷蔵庫の前に置いた。


「あ、手もちゃんと洗ってねー」

「わかってるって」


 俺は手を洗って今日買った服を自分の部屋にあったハンガーやらで壁にかけたりタンスにしまった。

 リビングに戻るとキッチンにルイナがいた。


「これは?」

「水魔法で野菜を洗ってるのよ」

「一度に全部洗えるんだな」

「これが誰でもできるというわけじゃないのよ?」

「水も得意属性だったりするの?」

「私の得意属性は氷だけよ。氷は水が元だから水魔法は大体使えるのよ」

「氷魔法も二つ得意属性あるようなもんなんだな」

「まぁねぇー」


 俺が二つ得意属性持ってなかったらここでドヤ顔してただろうな。


「次は野菜を風魔法で切るからちょっと離れてて」

「へーい」


 俺は大きく一歩下がった。

 すると約3秒ほどで野菜が丁度いいサイズに切られた。


「うぉ!すごな!」

「ふふん、私くらいなればこのくらい楽勝よ」

「風が得意属性の人ってどれくらい強さなんだろ」

「うーんと、強い人だと城一つ消し飛ばすくらいね」

「マジか!そんなんで反乱が起きたときそういうやつ出てきたら城終わりじゃね?」

「大丈夫よ。国王はみんな民のことよく考えてくれてるから反乱なんて起きないわよ。起きたとしても城の周りには強い防御壁魔法が張られてるから多分あれを壊せるやつはいないわ」

「そうなのか。フラグじゃなければいいけど」

「怖いこと言わないでよ」

「このエスタル国だっけ?の国王ってどういう名前なんだ?」

「フォーリア・エスタル・ゼリスよ。ちなみに得意属性は土と光よ」

「ふーん、見たことないけどすごい強そう」

「私も生で見たことないけど強いんでしょうね」


 ルイナはコンロに火をつけようとしていた。


「ほいっと、あ、あと今のが炎魔法ね」

「コンロは魔法でつけるんだな」

「『コンロは』っていうか、こういうのは全部魔法、というか魔力を使うわよ?」

「え、なら冷蔵庫は?」

「もちろん私お得意の氷魔法の魔力を調節して注入してるのよ。魔力の残量はメーターでわかるわ」


 車のガソリンみたいなもんか。

 そうしてルイナはカレーと全く同じ手順でジャルカを作っていった。


「かんせーい」

「おぉー、普通にうまそう」

「なによ、私の料理力を疑ってたの?」

「まぁ少しは」

「はぁあぁ~?もう食べさせてあげなーい」

「本当にごめんなさい、今回ばかりはルイナ様を不快に思わせたことを深く謝罪します」

「わかればいいのよ」


 ちょろいな。そうしてできたジャルカをリビングの机に置いて椅子に座った。


「お米は冷凍のやつだけどアルトにはピッタリね」

「二度と食いたくないな。いただきまーす」

「ご飯を食べさせてくれるだけでも感謝しなさい。いただきまーす」


 いざこざしながらもジャルカをスプーンで口に運ぶと


「んんー!おいしい!」

「でしょ?というか私も女なんだから料理くらいできるわよ」

「そうだな、ルイナみたいな嫁が欲しいな」

「えっ、ちょ、はぁ?な、なに言ってんの?馬鹿でしょ」


 冗談で言ってみたがすごい反応だ。照れているのと動揺してるのが顔色と言葉でわかる。

 俺も照れたらこんな真っ赤な顔色になるのか?そう思うと少し恥ずかしくなった。


「あはは、照れてるんだねぇ」

「てぇ、照れてないわよ!」

「冗談なのにねー」

「わかってるわよそんなこと!」

「必死で可愛いねー」

「もぉー!うるさい!耳以外凍らして耳引っ張るわよ!」

「まずは自分の真っ赤な耳を凍らせたらどうだ?」

「なっ⁉」


 ルイナは立ち上がり俺のほうに手を向け、なにかを唱え始める。


「我を怒らす愚か者よ、全てを凍らす絶対零度の氷に飲み込まれ、華やかに散りゆくがよい!」

「んん!?ちょっと待て!」


 俺は立ち上がり後ずさりした。


零凍氷華れいとうひょうか!」

「待てって!」


 俺の話を聞かずルイナの手から氷のようなものが俺に向かってくる。あれをくらったらひとたまりもない。俺は手をクロスしてなんとか身を守ろうとした。


 すると大気圏を突破したときのような真っ黒い煙が俺を包んだ。


「これは、あの時の!」


 そういうと真っ黒い煙はなくなった。

 俺の周りには雪の結晶のようなものが舞っている。


「防御魔法!っていうかアルトそこまで魔法使えるっけ?」

「い、いやなんか勝手に」

「多分本能で自分を守るため体が自動的に魔法使ったのね、稀にあるらしいけど見たの初めてだわ」

「そうなのか」


 だから大気圏を突破するとき出たのか。


「あとその魔法は物理技には弱いから」


 地面に落ちるとき出なかったのはそのせいか?


「はぁー、もういいわ、冷めないうちに食べましょ」

「ああ」


 ルイナの怒りも収まってよかった。本能に感謝だ。

 俺たちは再び椅子に座ってジャルカを食べた。



「ふぅ~、お腹いっぱいだぁ~」

「2杯食べるなんてよほど私のジャルカがおいしかったのね」

「そうかもな」


 晩御飯前くらいにこの世界に来たからずっとお腹が空いていたのだ。


「さて、片付けはアルトがやってね」

「なんとなく予想はしていたがそうなんだな」

「お手伝いするだけで全部ただなんてそうそうないわよ、感謝しなさい」

「はいはーい、絶対ルイナより皿洗いとか遅いけどな」

「承知の上で頼んでるのよ」


 最低だな。

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