第2章 港町イルスア~休暇・バカンス・新たな始まり~

-賃貸屋の長期休暇、海へ行こう①-

ここは王都から少し離れた港町イルセア、様々な大陸、各国々からの海の流通の拠点、港には特徴や造形と大小様々な船が港に停泊しており、その場所々々から荷は乗組員と商人達が物資を卸し又は積み込んでいく。

漁船から降ろされた新鮮な魚貝類は市場にて競りが行われ、数ある飲食店では獲れたての新鮮な海の幸をふんだんに使われた料理が味わえる。

また港から少し離れた浜辺はリゾート地となっており澄み切った蒼い海が1面に広がり、貴族、冒険者、旅行者が集まり、高級宿泊所も数多く存在する。


そんな港町に一組の一行が到着する…


「海だー!! 」


先頭を行く獣人の少女、それを応用に少女…のように見える青年


「ヒナタ待てよ! 」


肩まで伸びた少し青がかかった銀髪に凛々しい繭、海を目の前に元気に走り出す少女ヒナタとそれを追うは長い金髪とエルフのように整った顔、少女のような青年クロ―ドが追う…そしてその後ろには


「あらあらお二人とも砂に足を取られないように気を付けて」


「若いっていいな~」


日傘を差し女性、綺麗な翡翠色の髪と賢明で神秘的な顔に全てを見通してそうな眼を優しく細め少女と青年をみるエルフのフィン、そしてその隣を歩く流れる蒼い髪にどこか冷たい黄金の瞳の少女、腕と首元には美しい鱗が垣間見える…王都の守護龍、竜王ヒスイ、そして…


「…熱い…だるい…」


白いパーカーと黒いシャツにジーンズとボーイッシュに着こなした女性、長い黒髪に整った顔立ち、普通にしていれば美人であろうその容姿、だが…その影は現在微塵もなく熱い日差しに照らされ暑さから逃れようとだらしなくシャツの裾を広げパタパタと空気を入れる淑女らしからぬ行動…賃貸屋【ISEKAI CHINTAI】店長イズミ


賃貸屋一同は倒壊した店舗の建て替え準備期間中を利用しこの街イルセアへ社員旅行へ来ていた。


「イズミ…それは女としてどうなんだ…あと…少しぐらい荷物…もって…いやなんでもありません」


男の名はアキト、【罰ゲーム中】と書かれたシャツの細身の体、しかしその下には強靭な肉体が隠れている、長い髪を後ろで束ね大量の荷物を両手と腰に背負う、彼の苦情の一声はイズミの威圧と怒りの子もっと鋭い視線により遮られた。


一同は海辺の一角に場所を取り荷物を広げはじめる、ヒナタとヒスイは服を脱ぎあらかじめ着ておいた水着姿になり海へと飛び込んでいく…


「あ~~~子供の頃、家から着ていく子いたな」


「着替え忘れて悲惨なことになったりね…くっ~~冷えたエールが美味しい」


缶にはいったエールを飲みながら飲みながら2人を見送るイズミ、飲みながらアキトは特注のバーベキューセットを準備しつつフィンから冷えたエールを受け取りあける。


「さてバーベキューの準備はできたぞ~」


「ご苦労!」


「店長! アキトさんばっかりに準備させずに手伝いましょうよ」


「断る!! 」


「もうすぐハゲ…ヴォルフも来るだろうし大丈夫だよフィンさん…」


「すいません…私は市にいって食材買ってきますね」


「あ、俺も行くよ! 荷物持ち必要だろ?」


フィンとクロ―ドは現地の食材を買いに歩き出しアキトはイズミの隣に座りエールの入った缶に口をつける。


「しかし…クロ―ドもお前の店で働くことになるとは…」


「倒壊した原因はなにかな? 」


「……」


クロ―ド(ヒナタもだが)が店内の壁を破壊、店舗のガラスを粉砕、アキトの言動によりイズミとフィンの怒りを買い放たれた大魔法、店はその衝撃にさすがに耐えきれずあえなく倒壊、現在は立て直しを行うついでに店の拡張を行うための土台工事、主に汚物、排水処理施設を作るための工事中だ、建物自体はイズミのスキルにより一瞬で作成できるが、専門設備にあたる処理施設は作成できず、専門家が行う。

日々発展している王都で処理施設を構築する専門家は少なく、仕事が詰まっているため約1週間は順番待ちのため店を休業とし従業員一同、社員旅行にすることにし、原因のアキトとクロ―ド、そしてギルドマスターのヴォルフを誘うことになった。


アキトとクロ―ドが原因というが…実際に店にとどめをさしたのはイズミとフィンだが…


「ま、従業員も増えて手狭になってきたし、いい機会よ」


「しかしクロ―ドがイズミの店に働くことになるとはな…」


「期間限定予定だけどねヴォルフさんは手放したくないみたいだけど…」


「ヒナタもいるしな…しかしヒナタはクロ―ドの好意に気づいているのだろうか…」


「恋愛感情は…あるとは思うけど、相思相愛と気が付いているかは分からない…」


「そういえばフィンさんとかイズミはどうなんだ? 恋愛とか」


「フィンは分からないけど…てかフィンに相手がいるとしてもし宰相…クエスさんに知れたら…私は不老を手に入れたらなんか恋愛とかそういうの気にしなくなったね何時かはとは思うけど」


「そうか…」


二人はエールを飲みながら他愛のない会話を続ける…そこへ買い出しから帰ってきたフィンとヒスイ…あれ…なんかチャラ付いた男たちに囲まれてる…


「ねぇねぇ~お二人さん僕たちと遊ばない? 」


「美味しいお酒もあるし一緒に飲んで楽しもうよ」


「イルセアで一番の高級宿と言えば解るかな? 俺たち泊まってるんだよ、どう? いかない? 専用のビーチもあるからさ」


「やめてください」



怒りのあまり本来の姿に戻りつつある、フィンの周りに精霊が集まり始めるが男たちは気づいていない…男達がフィンの体に触れようとその手を伸ばそうとし…


クロ―ドはどこに行ったのか…助けに行こうかとイズミが立ち上がろうとしアキトはさしてあったビーチパラソルを引き抜く、だがフィンとヒスイに絡む男たちの後ろに一人の男…その頭は日差しをよく反射しており見えない…


フィンの豊満な胸に触れようとしたチャラ男の手を掴む手


「おい、お前ら俺の知り合いになんかようか? 」


男たちに声をかけるその人物、頭はスキンヘッド、顔には左から右へ走る傷跡…日に焼けた黒い肌、鋼のような筋肉の鎧に数々の修羅場を通ったであろう傷、王都リ・ワールドにある冒険者ギルド、数々の種族、冒険者、転生者、転移者がいる中で最強と噂されている男、ヴォルフ・ツルパゲイその人だった


「あ、あんたは?! 」


「おいてめえ! 邪魔すんじゃ…」


「おいバカ! その人は」


殴りかかる男、打撃音とそして空を飛ぶ大きな影…殴りかかった男は弧をえがき砂ぼこりを上げて砂浜の地に大の字に倒れる。


「そいつを拾ってさっさと去れ! 」


突き出した拳をほどき倒れた男の方を指さし言い放つヴォルフ、倒れた男を助け起こし、顔を青ざめ泡をくったように逃げ出すチャラ男達…


「ふん…大丈夫か二人とも? 俺が助けるまでもなかったと思うが」


「いいえ…ありがとうございますヴォルフさん」


そこへ荷物を持ったクロ―ドが騒ぎに急いで戻ってきた


「マスターすいません…先にフィンさんを戻したの失敗でした」


それを見届けたイズミは、準備していた魔法を手を振るように散らし3人を迎えに行く、アキトも投てきしようとしていたパラソルを広げ直し地面に刺す


「ハゲ遅かったな…その手に持っているのは差し入れか? 」


「ヴォルフさんありがとうございます、どこにでもいるのねああいう輩」


「誰がハゲだ!! いやいや俺は人助けをしただけだ…お二人ではなくアイツらをだが」


ヴォルフから差し入れを受け取りフィンとヒスイは網に肉や野菜、魚介類を焼き始める、その匂いにさそわれるようにヒスイとヒナタも戻ってくる、一同はエールやジュースを手に持ちバーベキューを楽しみ始めた。


「このお肉美味しい~~~」


「あ、それ俺が育てていた肉! 」


「まだまだありますから」


肉を争うように食べるヒナタとクロ―ド、次々と食材を焼いていくフィン


「このピザは楓さんの店のだよね」


「ああ、こちらに合流するといったら持っていくように言われた、行きたがってたぞ」


美味しいピザに舌鼓しながら食べるイズミとその問いに答えるヴォルフ、近くにはすでに空になったエールの缶が大量に転がっている。


「アキト! お前も飲め! 」


完全にできあがりつつあるヒスイとそれに絡まれるアキト…体を砂に埋められ顔だけが出ている…

ヒスイとヒナタが堀り、ヴォルフによって埋められた…額には肉と書かれている。


「いや、なんで俺…埋められてるの? 」



港町イルセアは平和である…



---------


王都から少し離れた港町イルセアにある某所、地下階にあるとある連合の会議室、そこに集まる物達

その会議室は当初より数が減っていた…1人はボコボコにされ…1人は情報で買収され、また1人は物忘れはげしく口車に乗せられ逆に金を落とし、そして一人は店を休業させる要因の一つになったものの以前の美形はいまや醜い顔になり果てていた…彼らを含め何人かが去って言った。


「まさか貴公子までもやられるとは…」


「しかし、さすが貴公子! ただではやられはしなかったな」


「ただの変態だと思っていたのに」


「しかし…あんな…むごすぎる…顔の原型がまったくもって…」


賃貸屋から戻った貴公子の姿は…見るも無残であった、鼻はオークのように潰れ手足は到底人の力では不可能とも思えるほどに折れ曲がり、貴公子の周りにいた取り巻きはいなくなっていた…


「マダム、老子、貴公子もだめだった…」


「賃貸屋に対抗するできるつわものは他に…」


「俺もクロ―ドきゅんに殴られたい! 」


ざわつく会議室…そんな会議室に粉砕音が鳴り響く、頑丈な会議用のテーブルは中央から亀裂が入り割れて倒れる…一瞬で静寂する会議室内、そこに一人の男が言い放つ


「黙れ! 騒ぐな! 」


「「「「!!」」」」


驚きに鎮まる会議室…


「やつらは所詮噛ませ! 所詮は雑魚だ!! …聞け諸君、やつら…賃貸屋が我が領域に自ら足を踏み入れた…」


「キング! 我らの力を総動員する時です!! 」

「貴公子の敵を!!」

「目にものを見せてやりましょうぞ! 」


賃貸屋への復讐、その志を分かち合い賛同し、連合を去らず残った者たちが猛る思いを胸に騒ぎ立つ

それを手で制し待ったをかける男、その男、連合の首領、連合の中で数少ない転生者、膨大な富と自前のスキル、称号、ステータス、その力を周りは憧れ、そして恐れ、崇拝するキングオブキング。

虎が描かれた豪華なマント、髪をオールバックに固め、金縁のサングラス、笑う口から見える歯は全てが金、首から下がるアクセサリー、指にはめる指輪、全てが金で統一されている。


「そう焦るな…やつらはここにもうすぐやってくる…罠をしかけ…じわじわといたぶってやろうではないか」

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