Ma_G_eRe_co_rds《メイジレコード》

宇宙犬hiro

第一話 失敗

1ページ目

「さぁ、準備は出来た、私達の新しい友人を招待しよう…」


ローブを着た異形が巨大な装置のレバーを引くと

装置が動きだし複雑な形をさらに変え

筈のその空間にはあり得ない地響き

轟音と共に巨大な魔法陣を宇宙そらへと吐き出した…


―――しかし、大袈裟な演出にしては何も起こらなかった。


「……あ、あれ?可笑しいな…失敗した?いやいや装置はちゃんと作動してた…命令式もちゃんと…ヒェ!?座標を一桁間違ってる!?まずい…もし間違えて人でも来ていたら…」


異形はやらかした事の重大さと後処理の事を考え、「あわわわわ…!」と情けない声を上げながらガタガタと震えた。


――――――――――――――――

雨降る夜の森の中。

旅をするには余りにも軽装すぎる人影が一つ。

否、人影というには少し大きい2m程の人型ゴーレムが不穏な空気を察知し振り向く。


「奴の気配がしたと思ったが…気のせいだったか…」


そこには木々しかなく、夜の森の静けさが存在するだけであった。


「この機能も当てには出来ないな…何か形のある手がかりを探さねば…」


先を急ごうと足を踏み出す、すると


ドガァーン!!ゴロゴロゴロ…


先程まで静かであった森の空に不相応な魔方陣が現れ落雷音が鳴り響いた。


「あれは…!まさか!」


魔方陣の光が消失する前にと急いで陣の元へ向かう。

到着する前に魔方陣は消えてしまったが、落雷音の後から不自然に聞こえてきた赤子の泣き声を頼りにゴーレムはに入っている赤子を発見した。


「ああ…何という事だ…」


赤子を抱き上げたゴーレムは空とも言えぬ何処かを見詰め


「お前はどこまで愚かなんだ…オリアクス…」


その呟きはより激しくなった雨の音に掻き消された。





昔々、世の魔法使い達の夢物語を現実のものに出来る大魔法使いが居た。

名はオリアクス

彼は魔法の基礎は勿論、不可能とされている生命の創造

キメラの作成、不老不死の秘薬、大空の飛び方などの様々な魔法を産み出した

しかし、世に魔法を知らしめたのはオリアクス本人では無く

オリアクスの書の一冊の

たった1ページの紙が人々に魔法を教え

魔法歴を生み出したとされている

たった1ページで世界を変えるオリアクスの書が原本で並んでいる書斎が世界のどこかにあり

そこに辿り着く事が出来れば全ての望みが叶うと言われている

全ての魔法使いの憧れの地 誰が付けたのか

古い知識の有る者はその存在を


「メイジレコード」と呼ぶ



無造作にそのような内容の本が広げられた机の上で

せっせと作業をする少年が一人。

「できた!」と人工の翼をかかげた。

二階の小窓から身をのりだし、似合わないエプロンを着て外で洗濯物干しをしている2mのゴーレムに「アストラルー!」

と声をかけ、アストラルと呼ばれたゴーレムの返事も待たずに少年は「とう!」と二階から飛び降りた。

何度か羽ばたくがお尻から落ちる少年。

それをシーツを広げ受け止めるアストラル。


「アキタカよ、何度でも言おう、自己で対応できないような危険な実験はやめてくれ、私の臓物が持たない」

口は無いが溜め息をつきながら諭すように注意をし、アキタカという名の少年をそっと地に下ろす。


アキタカはそれを言うなら臓物ではなく心臓では…?と少し悩み、浮上した疑問を素直に聞いてみる。


「…ゴーレムに臓物ってあるの?」

「ものの例えという奴だ、ここ数日の会話で学習した」 


少し得意気に答えるアストラルに対しアキタカはツッコミ所があるのは分かっていたが、一番聞きたかった事があったが故に「そっか!」と軽く流した。


「それよりさっきのどうだった!?少しは飛べたかな」


翼を広げ焦げ茶色の目をキラキラさせながら問う。


アストラルは良い答えを言わなければと思う反面、正直な感想を伝えた方がアキタカの為になるだろうと少し考えてから答える。


「…昨日より2㎝ほど飛距離は伸びていたが…それはアキタカの跳躍力によるもので、あって無いような進歩だと推測され「ほんと!?やったー!ちょっとずつ飛べるようになってるんだ、風が足りないのかな?もう少し翼の面積も広くして…強度も上げないと!」


アストラルの言葉の途中で飛んで跳ねて喜ぶアキタカ。

「友達にも見せてくる!」と出ていこうとするアキタカをアストラルが慌てて止める。


「待て、アキタカ」

「あ、うん!これだね、忘れてないよ!」


アキタカの頭をすっぽりと覆うほどの大きな青い帽子を被る。

帽子には両サイドに犬の耳のような布地が垂れ下がり、額にはゴーグルがついている。

いつか空を飛べるようになったら必要になるだろうと、アストラルが作ってくれた頑丈なものだ。


「よし!行ってきまーす!」

ボサボサの黒髪を隠すように帽子をしっかりと被ると翼つきの両手をバタバタとさせながら飛び出して行った。


「あまり遠くへ行かず、夕飯までには帰ってくるように」

「はーい!」


村の端にあるベンチが置いてあるだけの広場へ行くと新聞を取り囲む3人の子供達の姿があった。

 

「製作者不明の黄金の杖国ひとつ更地にするだって!すげぇ…」

「3つめの世界兵器に登録されたんだっけ?」

「そ!今は海の中に封印されてんだって!もったいねー!俺なら使いこなすのに!」

「どうかなー!」「なんだよー!」


殺伐とした記事の内容に反して子供達の反応は憧れが先に来るせいでか前向きであった、なにせこの世界は魔法が全てと言っても過言では無いのだから。


「ねー!みんなー!」


バタバタとさせたまま子供達の集まるところに駆け寄るアキタカ。

毎日の事なのだろう、子供達は「あーまた来たか」といったような顔だ。

その中の年長者らしき金髪金眼の少年が表情はそのままアキタカに声をかける。


「よく来たな、どうした?今日こそ飛べたのか?」


「ふふーん!今日はね…なんと…」

「ゴクリ…」

アキタカの溜めに全員が息を飲む…


「2センチも飛距離がのびたんだー!」

胸を張り何故か自信満々に答えるアキタカの言葉に3人全員がずっこけた。


「お…お前なぁ!それは飛べたって言わねぇんだよ!」


「そう!でも今日から2センチずつでも飛距離を延ばしていければいつか本当に飛べるようになると思うんだー!」


年長者らしき少年は若干怒気を含んだ言い方をしたのだがアキタカには通用しなかったようで

アストラルの時と変わらない眼差しで、目をキラキラとさせながら答える。

その様子に半分呆れたかのように「はぁ…」と溜め息をつく。


「いいか、良く聞け…自由飛行の実験は、かの有名な大賢者様でさえ何度も失敗しているんだ、実質不可能だと証明されたようなモノだぞ…」


「でも風船鳥や大魔法使いオリアクスだって空を飛べたって本にかいてあったよ?まだ発見されてないけど竜だって」


「それは神話の中の話だろ?現実は違う…そもそもアキタカは魔力が…ゴホン…魔法が得意じゃないんだ、取り返しのつかない大怪我をする前に危険な実験は止めた方がいい…」


そう、この世界には飛ぶ手段というモノが全く存在しない。

それどころか5秒以上も自由飛行を行える鳥は神話生物扱いとなっていた。

竜も同じく、存在は本のなかのみとなっている。


「なら!ぼくが最初の自由飛行者だね!」


しかし、そんな事はアキタカには些細な問題であった。今まで出来るものが居なかったのなら自分が最初の飛行者と成ればいい。

そう言わんばかりにキラキラとした濁りのない目で友人を見つめる。


「心配してくれたんだよね、ありがとうアイドニ!ぼくは大丈夫だよ!いつも安全対策はバッチリだから!」


安全対策というのは言わずともがなアストラルの事なのだが…アストラル本人はそれを知らない。

アキタカにも悪気はない。

先程まで説教をしていたアイドニ少年だが今度は諦めたかのように溜め息をつき。


「あまりアストラルを困らせるなよ」

と言いながら笑い、アキタカも新聞記事を囲う輪に混ざるように手招きする。


「製作者不明の黄金の杖…?へぇー変わった形をしてるんだね!」


アキタカが興味を持ったのは記事の内容よりもその杖の姿形であった。

本来魔法に使われる杖というのは魔力伝達率が高すぎても低すぎても魔法には向かず、魔力伝達率がちょうどいい木や銀の棒に魔宝石が組み込まれているシンプルな物が好まれる。

それを世界一の魔力伝達率を持つと言われる金なんかで杖を作り、更に使った魔法次第では暴発…あるいは杖そのものが歪み、酷ければ熱暴走で溶けてしまう可能性すらあるのだ。


にも関わらずこの記事の杖は黄金色をしており、形状も細かいパーツを寄せ集め組み立てられたかのように非常に複雑そうであった。

その複雑な見た目はまるで…


「なんだか…アストラルに似てる…?」

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