第17話 金谷 美月

「あゆくん......私の水着どうですか?」


「そうだね、それって見ていいやつなの?」


「?」


いや、『?』じゃないが?

美月が着ている(?)のは絆創膏ばんそうこうだった。

エ○漫画の世界だけかと思ったわそんなの。


「むしろ見て下さい。これであゆくんは私の裸に抵抗が付き、私が家で全裸でいても何も疑問を抱くことはなくなります。既成事実まで秒読みですね」


「......」


やばいですね☆

何よりも前日の未来の紐、そして今日の美月の絆創膏で確かに付きつつある全裸への抵抗が怖い。

ラブコメみたいに、ヒロインの水着の感想を頭の中で長々と語るという僕の夢はついえた。

だって、『絆創膏だね、エロいね』くらいの感想しか無いもん。


「さぁ、あゆくんもパーカー脱いで早く泳ぎましょう!」


「そうだな。昨日も泳いだけど、折角だし今日もとことん泳ぐか!」


美月に急かされてパーカーを脱ぎ、水着姿になる僕。


「......」


「どうしたの美月?」


先程まであんなに饒舌じょうぜつに喋っていた美月が急に僕を見て固まる。


「......先程既成事実まで秒読みと言いましたが、秒数は『1秒』なのでした!待っててください歩美!」


こいつ理性を抑えきれてない!

しかも『歩美』って?

......あぁ、僕の『歩』と、美月の『美』で『歩美』か......。

もう僕たちの子供の名前を決めていることに突っ込みたいがその前に......


「美月ストップ!!!」


「!!!うグッ!!!コろシテ、ナまゴロシdeath......」


いやこっわ!

血管が浮き出し、血の涙を流す美月。

それバトル物の主人公が最後の力振り絞ってなるやつだから。

ラブコメの女の子がしていい顔じゃないから。


「そんなことしたら契約違反で皆んなに止められちゃうんじゃないの?」


「た、確かにそうでしたね......。ここは我慢しましょうか」


「僕も美月ともっと遊びたいからね」


「孕みてぇです」


「さいてぇです」


一悶着ひともんちゃくありつつも、僕と美月は海で遊ぶことにした。




――――――――――――


「きゃっ!」


「どうしたんだ?」


突然短い悲鳴をあげる美月。

なんとも珍しい。


「上と下両方の水着が流されちゃったみたいです」


「......じゃあ隠しなよ!」


水着(?)が流されたにも関わらず、美月は特に何も気にする様子は無かった。


「これは不慮の事故なので仕方ないですね、あゆくん、手ブラ手○ンチャンスです!」


「あんまそういうこと女の子が言っちゃダメだよ!?」


そう言いつつ僕の手をがしっと掴み、自らの胸に近づけていく美月。

美月を見ないようにとパシャン目を瞑っていた僕がパシャン対抗出来るはずもなく、パシャンどんどんと美月の胸に吸い込まれていき......


「いや待ってこれなんの音!?」


なんかさっきからパシャンパシャン聞こえるんだけど!?

美月を見ないようにしながら音のなった方向を見ると大量の水着が浮かんでいた。

視界の端で一心不乱に他の3人が水着を投擲とうてきしていたのは見なかったことにしよう。


「とっ、とにかくこれに着替えたらどうかな!」


「......ばっちぃからやです」


美月に掴まれている手をバッと離し提案するが却下されてしまう。

......よく見ると全部タグ着いてるから新品なんじゃ?


「でもこれ全部タグが......」


「あっ!海水が目にしみてっ!何も見えません!」


「嘘だッ!!!」


―次回からはヤンデレパニック!〜鬼隠し編〜が別に始まりません。


「ほら、とりあえずこれで我慢して」


美月に似合いそうな水着の上下を手渡すと美月は笑顔でそれを受け取り、身に付ける。

選んだのは美月の髪と瞳の色と同じ、淡い水色と白色のストライプのビキニで、装飾として付いているフリルが何とも可愛らしく美月の魅力を最大限に引き出していた。

あどけないながらも、身に付けたビキニと肩まで伸びる髪からしたたり落ちる海水でセクシーさを感じ思わずドキリとしてしまう。

あっ!

僕の、『水着の女の子を長々とラノベ風に語る』という夢が叶った!


「あゆくんが私のために選んでくれたんですから我慢だなんて言わないでください。この水着は私の宝物です」


「そっ、そうか。うんうん、喜んでくれたら何よりだ!その水着似合ってるぞ、凄い可愛い」


「そっ、そんなこと言われたら......」


美月の言葉でさらにドキドキしつつ素直に気持ちを伝えると、美月は顔を真っ赤にし、胸の前で両手の指を絡めモジモジさせる。

......これがラブコメっ!!!

そうだよ!

毎朝4人と密着しながらアーマー登校したり、その時に顔をぺろぺろされたり、ご飯の時にあーんされたりして感覚が麻痺ってたけどこれが普通のラブコメなんだよ!

てか今までが酷すぎるな!


「孕みてぇです」


「......」


「バシャバシャ(美月が僕に近づく音)」


「......」


「スッ(美月が僕の水着に手をかける音)」


「......」


「シュタタタ!(未来、香菜、七海さんが砂浜を爆速でかけてくる音)」


「......」


「ギンッ!(美月と他の3人が睨み合う音)」


「......」


「ギィィィィィィン!!!(4人がバトルを始めた音)」


「......帰るか」




――――――――――――


3day 『香菜』


「......歩様見て!......綺麗な海......」


「そうだね、それはもちろん知ってるよ......でもね?」


海を見てキラキラと目を輝かせる香菜。

うん、それ自体はいいんだ。

でも違うんだ!


「......どうしたの?歩様?......様子が変......」


「なんでドレス着てきてるの?」


そう、海に来ていると言うのに香菜が着ていたのはドレスだった。

しかも結婚式で花嫁が着るガチのヤツだった。


「......?これがウチの普段着......。それに私泳げないし、歩様も疲れてると思って......、だから今日は砂で遊ぼ......?」


そんな普段着があってたまるか。

普段着でドレスを着ている香菜を見た事が無いため、恐らく気合が入っているのだろう。


「気使ってくれたのか、ありがとう、香菜」


「......(♡∪♡)......」


「どこでそんな顔芸覚えたんだ......」


漫画やアニメの世界だけじゃないんだ、それ使えるの。

そんなことを考えつつ、僕と香菜の1日が始まるのであった。


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