完全なる均衡㊴
チェカは、チェンの態度を鼻で笑った。
(似てるわ、この男……。死んだフリージアと。まるであの頃のあの
チェカ・レビノホフは、かつてフリージアという年下の女性と恋人関係にあった。チェカは、いわゆる男性に対して恋愛感情を抱かぬ同性愛者であったが、それ以外は何の不自由もないほどの恵まれた才媛であった。
彼女は、学生時代に祖国のスポーツコミュニティで槍投げの特別選手枠に選抜されるほどの才覚を持ち合わせており、それに並行して所属していたダンスコミュニティの中心人物でもあった。
そんなある日、
「いけない……。ダンスシューズのひもが切れてしまったわ」
彼女がバッグの中の持ち合わせの靴ひもを探し当てようとしたとき、
「ねえ、ひもが切れちゃったのでしょう? あたしがちょうど良いのを持っているわ。これならあなたの靴の色に合うはずだもの」
チェカはあまりの唐突に驚いたが、背後からそっと差し出された靴ひもの色と、声の色調が素晴らしく心地よいものに見えたため、
「ありがとう」
そう言って微笑みを返した。
その後、彼女らが付き合うまでに大した時間を要さなかった。
彼女らは互いに求めあうものが共通しており、そして憎むべきものが同じであることを知っていた。
「凶獣はお父さんを殺した敵。凶獣はお母さんを早死にさせた敵――」
才媛であったチェカの暮らしが逼迫し始めたのは、彼女がまだ幼い時に彼女の父が凶獣守備隊の任務中に殉職したことから始まる。
「そこからお母さんが私を必死で育て上げてくれたわ」
ベッドの上で寄り添い、チェカはフリージアの耳元でささやく。
「そうなのね。でも、あたしの人生もあなたととても似ているわ」
「だから惹かれ合うのね、私たち……」
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