完全なる均衡㉚

 マグナム隊の若い三人も、月永平助と呉懐祐のハヤブサ隊コンビの実力を心得ていた。だが三人は、この実戦においても互いの実力を出し切れるという圧倒的な精神力に驚愕しているのだ。

「腰など抜かしている暇はないぞ、なあスコットどの。凶獣は、少なくともあと一体は存在したはずだ」

「うむ、ヘイどのの言う通りでござる。さあ、そこのお嬢さんお二方も、武器をまとめてここから去られよ」

 ハヤブサ隊の両名は、もう五十のよわいを経ても、りんとして驚くほど背筋が伸びている。

「ねえ、シェンナ。あんた、かなり男の見る目あるわね」

 髪の色を真っ赤に染めたエミル・エバンスがなまめかしい眼差しでポーっとした表情のシェンナの横腹を突っつく。

「う、うん、そうね。あたしやっぱり、ファザコンのがあるのかしら……」

 促されてその場を立ち去ろうとしたとき、

「お、おい……。なんだか様子がおかしいぞ」

 額に脂汗を溜めこんだガタイのでかいスコット・マイティが彼女たちを呼び止める。

「なによあんた。そんなナリして、足元が震えてるじゃないの」

「もう、本当に肝の小さい男ね。少しは月永さんを見習いなさい」

「ち、ちげーよ、そう言うんじゃねえ! この音がお前らには聞こえねえのか!?」

 さらに声のトーンが縮み込むスコット。二人は、そんな情けない男の態度にうんざりしてしまい、

「なによ、音って? 何か聞こえて、エミル?」

「ほっといて行こうよ、シェンナ。何も音なんか聞こえないわよ。どうせこいつ、いつもみたいに見えないものにビビってんのよ。あたしゃ女だかんね。こいつが一人怖くてトイレに付いてきてくれって言われたって、絶対にお断りだかんね」

「な、なに言ってんだよ! そう言うんじゃねえって!!」

 スコットが突如大声を上げた瞬間、

「ぐうわっ!!」

 上空から轟音と共に巨大な塊が一直線に降りて来た。スコットの大きな身体は、その風圧によって吹き飛ばされて十五メートルほどにそびえ立った巨木に背中から打ち付けられてしまった。

「な、なに!?」

 起きたことに認知が追い付かなかったシェンナ・シェンカーは、またさらに頭の中が混乱する。

「い、いやああっ!! エミル!!?」

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