完全なる均衡㉘

 マグナム隊がせめぎ合う後方から、二名の野太い声が聞こえて来たかと思うと、

「せえい!!」

「でいや!!」

 飛翔し、マグナム隊が陣取る方向に突っ込んで来た凶獣の片翼が吹っ飛んだ。

「やったか!?」

「いや、まだでござる!!」

 相方である呉懐祐ごかいゆうの素早い見立てに、月永平助は息をつく間もなく後方に飛び立てると、

「南無三大菩薩!!」

 との気合いの掛け声とともに細身の槍を袈裟切りの方向に弧を描く。すると、

 ギャアアアアスッ!!――

 漆黒の相方の闇の中にけたたましいうめき声が轟いた。

「ヘイどの! 今度は手ごたえあり!!」

「ならば、カイどの! そなたはとどめを!!」

「心得た!!」

 言って呉懐祐は、先に漬物石の三倍もあろうかという岩ハンマーを大上段から振りかざし、

「大往生!!」

 腹の底から気合がこもった声と共に一閃! 地の底にいずり回る凶獣の脳天に必殺の一撃を食らわすのであった。


「お見事!」

「いや、そなたこそ」

 互いに勇者を称え合う声が森に響いた。

 真っ暗闇ではあるが、むせ返るような凶獣の青臭い体液の匂いに、マグナム隊の三人は腰を抜かしたままだ。

 月永平助は、〝ハヤブサ隊〟のリーダーであり、今回の精鋭の中では頭二つ以上抜きん出た筆頭株である。その俊敏さと身体能力は、かの羽間正太郎をしても、

「ヘイさんの身軽さは、この俺をしても敵わねえな」

 と言わしめるほどである。がしかし、

「いやいや、しかし私はもうかなりの老頭児ロートルゆえ……」

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