虹色の細胞㊿

 小紋は言葉も返さず、さらに強くしがみつく。

 きっと彼女も同じことを感じているのだろう。しかし、若い彼女には何をどうすれば良いのか分からない。百戦錬磨の正太郎とて、絶対に未来は予測など出来ない。そして、必ず正解とされる未来ビジョンなど模索出来やしないのだ。

「俺ァよ、小紋。随分前に、お前の親父さんに絶対的機械神の〝ダーナフロイズン〟なんてもんが存在しなかったことを聞かされて腰を抜かしたよ。なんてったって、この俺ァ、そいつと命を懸けて戦い合ったんだからな」

「うん、知っている……」

「そんでよ、この俺ァよ、知っての通り神様なんて存在が居ても居なくてもどっちでもいいって考えで子供のころから生きて来たんだ。だってよ、そんなものが居ると居ねえとかを考えるよりも、もっと大事なことが目の前にあると思って生きて来たからな」

「うん……それもよく知ってる」

「そりゃあよ、この人類の歴史を鑑みりゃあ、その色んな神様とか色んな宗教とかの功績も認めるし、それによって人類が争い合った経験も隅には置くことは出来ねえ。とは言え、それがあったお陰で人類が発展してきたことも認めなくちゃならねえ。現に、こうして俺やお前が存在しているのも、そんなもんを崇めて生きて来たご先祖さんたちがあっての功績だからな」

「うん……」

「だけどよ、小紋。それでも俺ァ、そんなのどっちだっていいんだよ。この俺や、お前たちが自然に育める〝役割〟を果たせるんならよ」

「正太郎さん……」

「ああ、だからなんだよ。俺ァ、このままにしておいちゃいけねえと思うんだ。お前の親父さんの考えのまま……いや、鈴木源太郎博士の考えのままに、こんないびつでフラットな世界のまんまにしておいちゃいけねえってな」


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