虹色の細胞㉖

 

 小紋には訳が分からなかった。今は〝聖都市サンクチュアラ〟への試験中であったのだ。

「だけどさ、羽間さん……。こんな事態になっちゃったってことは、聖都市サンクチュアラも大惨事になのかな?」

「さあな、それは分からねえ。なにせ、その聖都市サンクなんちゃらとかってのには、この俺ですら入ったことがねえ。その存在すら確認出来てねえとくらあ」

「ええっ!? 羽間さんですら知らないの?」

「ああ。なんてったってその話は、ヴェルデムンドの都市伝説みてえなもんだからな。あのマリダがどこかで女王やってるってのは確実な話なんだが、この俺にすら連絡をよこさねえとこ見ると、何か会いたくねえ理由でもあんだろ」

「あのマリダが……? 羽間さんに会いたくない理由なんて、そんなのおかしいよ」

 小紋はこの数年の間、正太郎に会いたくて会いたくてたまらなかった。そしてそれは、マリダも同じはずだ。少なくとも小紋はそう感じている。あれだけ時を同じくして分かち合った姉妹のような存在なだけに、マリダの気持ちを察せぬはずがない。

「仕方ねえのさ。それがあらゆる人の上に立つってことなのさ。上に立つってこたあ、その殆どの自分の時間を民衆の為に費やすってことだからな」

「そんな……。マリダ……」

 特に優秀で生真面目な性格のアンドロイドなだけに、他者に対する考えは徹底している。それだけに、小紋はマリダが不憫でならなかった。

「覚悟だよ。覚悟が違うんだ、あいつは昔っからよ。俺みてえな半端もんとはわけが違うんだ」

 正太郎は操縦桿そうじゅうかんを握りながら鼻息で応答した。正太郎とて、マリダのことを十二分に案じているに違いない。言葉にするだけが、本心ではない。

 その時、エナが再び二人のやり取りの間に割って入った。

「ねえ、これからどうするの、ショウタロウ・ハザマ? このまま真っすぐ突き進んでも、あの悪童が居る第二寄留の領域に進むだけよ?」

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