【第二十五章】虹色の細胞

虹色の細胞①


 発明法取締局のエージェントと思しき男性には、かのサトミル女史が言っていた、

『虹色の細胞』

 の片鱗も確認することは出来なかった。

「ということは、この人は〝五次元人〟とかじゃないんだよね……」

 小紋はまだ、五次元人の証明となりる〝虹色の細胞〟をその目で見たことがない。

「だけど、それしか〝五次元人〟と、そうじゃない人の見分けられないとサトミルさんは言っていた。今はそれを信じるしか方法はないんだよね……」

 小紋は、目の前に仰向けに伏せる男の遺体に、巨木の葉っぱを覆いかぶせると、

「お勤め、お疲れさまでした」

 と、そう言って膝をついて手を合わせ、その場をすごすごと去った。


  

 腕時計に目をやると、あれから三時間以上が経過していた。

 緊張もあり、出立前から何も食べていなかったために、今になって急に腹がなり出して来る。

(こんなところなのに、ちょっと恥ずかしいな……)

 小紋は辺りをきょろきょろと見回し、少し顔を赤く染めながらリュックにしまい込んでいたスティック状の携帯食にかじりついた。

(ああ、またシグレバナさんお手製のキャンプご飯が食べたい……)

 彼女自身も料理には多少の自信がある。しかし、今は試験の真っただ中であるために、それを作る余裕もゆっくり食べている余裕もないのだ。

 だがその時、巨樹の木々の向こう側から、優しく力強くその上この上ないほどの食欲をそそる匂いが漂って来た。

(これは、オリーブオイルににんにくをたっぷりと入れたて熱したときのいい匂い……)

 これは途轍もない破壊力である。まさか、このような場所でこのような芳香に巡り会うとは思いもよらなかった。

「ダメ……。勝手に身体が引き寄せられちゃう」


 

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