見えない扉㉞


「ああ、まあ、そういう言い方も出来るが、俺ァそういうことを言いたいんじゃねえ。俺ァな、小紋。俺ァ、そういう自分を知っておくことを常に念頭に入れておくことが大事だと言いてえんだ」

 小紋はこの時、自分が子供の頃にジグソーパズルをしていた時のことを思い出す。

 彼女は八歳の誕生日に、兄の春馬に可愛いキャラクターがモチーフのジグソーパズルをもらった。

 それは500ピースほどの子供用の物であったが、バラバラにされたそのピースを埋め込むたびに、その物自体にある違和感を覚えた。

「あれっ? 絵と形が合わないのが何個かある……」

 しかしそう思いながらも、彼女はそのまま埋め進め、ようやくのこと完成に至ったのだが、

「なんだか変だなあ」

 額縁に飾ろうとしたとき、彼女はそれが自分の虚実であることに気が付いた。

「これとこれ……。あと、こことここ……」

 彼女は、一生懸命作成に取り掛かるあまり、いつの間にか微妙な形のズレすら気にせずいくつかのパズルのピースをはめ込んでしまっていたのだ――。

「そうか、そうなんだね、羽間さん。人間って、そこにのめり込めばのめり込むほど、そう思いたくなっちゃう生き物なんだね!」

 小紋が言った時、正太郎は口角をぐいと上げて、

「そういうことだ。それが俺たち人間の特性。人間そのものなんだ。それを馬鹿だとか、情けねえとか嘆くよりも、そういう生き物なんだと自覚して自分たちをプロデュースしてやるのが先決なんだ」


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