全世界接近戦㊿


 小紋は、再び師である羽間正太郎の言葉を思い出した。

「そういうことだ、小紋。人間てなあ、何かあるたびに近視眼的になりがちなんだ。例えば、何かの問題事象が起きて、そこに科学的根拠があるだとか、非科学的だとか論戦を繰り広げちまう時がある」

「うん、それってよくある話だよね」

「ああ。だがな、どんなに科学的根拠があったとしても、それが絶対的な真実だとは限らねえ」

「ええっ!? じゃあ、やっぱり羽間さんは、オカルトみたいな話を信じちゃうの?」

「馬鹿! それはそう言う意味じゃねえ!」

「そうじゃないの?」

「そうじゃねえよ! 俺の言っているどんなに科学的根拠があっても、それが真実じゃねえってのは、その論議自体が近視眼的でミスリードになっちまっているてことだよ!!」

「ミスリード?」

「そう、ミスリードだ。つまり、それを論議すること自体は悪くねえ話なんだが、実はそこに問題定義の主眼からは程遠いってことだ」

「というと?」

「要は、戦略的思考がおざなりになっちまっているってことさ。例えて言うなら、ある国とある国との戦いで、どちらの国にも大陸間弾道弾が装備されているとする」

「うんうん」

「その上、どっちも大陸間弾道弾があるって証拠があるとする」

「うんうん」

「だけど、どちらの国も戦争に勝つには、それをどういった運用をするかが肝になって来る」

「ああ、そういうこと。つまり、どちらにも実質的な根拠を示す道具があっても、それをどう戦略に活かすかが重要でことだね」

「その通りだ。結構ありがちな話だが、人は強い武器を保有した時点で決着がついた気分になりがちだ」

「だけど、それだけでは戦争に勝っても、本当の利を得たとは言えないんだね」


 次章へ続く

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