全世界接近戦㊸


 ※※※


 しかし、いかな小紋でも、この敵を相手にするのは困難を極めていた。

 彼女は、かの羽間正太郎が唯一認めた弟子と言うこともあり、本能的に〝三心映操の法術〟を使用することが出来る。

 それは、自らの無意識がとらえた知覚によって、先々に起こる危険を察知し、それに対処する究極の感覚的体術である。

 だが、そんな小紋であっても、師である羽間正太郎のように、それを糧にして相手を打ち倒すまでには至らない。

 なぜならば、彼女は究極の奥義〝三心映操の法術〟を道具として活かしきれていないからだ。

(あのお二人に、大見得切ってあんなカッコいいこと言っちゃったけど、僕の腕前じゃ、もういっぱいいっぱいだよ……!!)

 小柄な身体を独楽こまのように回転させ、その反動を活かして電磁トンファーを操る。

 しかし、だからと言って、小紋にはこれ以上の打つ手がなかった。

 四方から無尽に投げ出される銀色の円月輪は、その出どころや角度が分からなくとも、究極の法術によって飛来する軌道を捉えることが出来る。

 とは言え、この集中力が途切れてしまえば、いかな彼女とて全てはご破算に帰す。

(なんとかしないと、なんとか……)

 小紋が、焦燥の汗を滴らせ、繰り返しトンファーを振りかざした時である――、

(逃げて……)

 声が聞こえた。

(逃げて……。小紋さん……)

 どこからか、聞き覚えのある優しい声が、心の奥底に響いてきたのである。

「何!? 何なの!? 誰? この声……!?」

 一度目に聞こえてきた時は、さすがに幻聴の類いであると思ったが、幾度となく脳裏に木霊するその声が、現実のものであると確信できた時、

「この声……!! もしかして、クリスティーナさん!?」


 

 

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