全世界接近戦⑳
島崎はこう語った。
「全ての争いは、人間の感情の向こう側にある。ただ、生きるか死ぬかの選択の合理的な考えだけなら、自分自身か、それとも相手自身をどうやって生かすかという選択を繰り返せば、人類自体は存続をし続けられる」
「もしかするとそれは、人類の最大の生きる目的が〝種の存続〟であるという定義からですね?」
「そうだ。その通りだ。……しかし、人間には情がある。自分という人間を生かし残すのか? それとも、相手が有能であれば、それを生かし残すことで、その後の更なる発展を望む選択をとるのかという、究極の合理性が成り立つ」
「なるほど。しかし、人間はそれほど賢い選択を望まない。なぜなら、私たち人間には、合理性以外の私的な感情があるから……だと、中佐殿は仰りたいのですね?」
「うむ、その通りだ。そして私は、あの当時の過去の選択を悔いているのだよ。もう少し、私が合理的な選択をしていれば、娘をあのようなみじめな姿に変えなくて済んだのではないのかと……」
島崎は、生き延びるために肉体の半分以上を機械化してしまった娘の姿を思い起こすたびに、胸の奥が締め付けられるのだ。
確かに、彼女が生き延びるためには、ヒューマンチューニング手術を施さねばならなかった。そしてそれが、どんなに合理的な選択であったとしても、彼女のアイデンティティを傷つけてしまったことは確かなのだ。
「ひとえに、どの選択肢が正しかったのかなどとは言えん。だが、私が勝手に感じていた周囲からの重圧の為に、娘の人生が一変したのは変えられぬ事実なのだ。だからなのだよ。だから私は、あの小娘を87部隊の生き残りに同行させたのだ。戦乱の火ぶたを悪化させるためにな……」
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