全世界接近戦⑱


 それでも、まだ副官は納得がいかない様子で、

「中佐……それが一体どのような意味を?」

「ふむ、まだ合点が行かんかね?」

「不肖ながら……」

「うむ。ならば、説明せねばいかんな」

 そう言って、島崎は背もたれのあるソファーにすとんと腰を落とし、

「情とは……いや私的な感情とは、戦略を考える者としては、時にはとても重圧がかかり、時には倫理の重荷となってし掛かる厄介なものなのだよ」

「は、はあ……」

「フフッ」

 島崎はそうため息を吐いて、遠い目をしながら、

「君も知っての通り、私は娘の美菜子を娘としても、反乱軍の組織の一員としても、とても誇りに思っていた」

「はい、それはよく存じております。なにせ、中佐の御令嬢である島崎美奈子大尉と言えば、当時の反乱軍でもとても有能で、だれもが憧れる容貌をした士官で御座いましたから」

「ふむ、なるほど。しかし、私は親バカであることを自負している。それだけの才覚を持った娘に対し、その後の幸せを願わぬわけがない」

「それはごもっとも」

 副官は、自然に縦に首を振った。それだけ、当時の島崎親子は周囲に信望があった。

「だがだよ。だが、私はそれが逆にネックとなり、娘を最前線へと送ることに決めてしまった。私は堪えられなかったのだ。自らの娘だけを贔屓ひいき目にしているととらえられることに……」

「そ、それはまさか……」


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