スミルノフの野望⑫
それは彼の言葉通りだった。それは間違いなく、この近くにある自治区の民々の仕業であることは間違いない。
「我々は、この数日間、あらゆる手を尽くして、やっとここまでやって来れたのだ。それも、この頑強に造られたオツ殿の車体があってこその話だ。だが、一般市民にはその手だてがない。それゆえ、この死骸の山を作ったのは、この近くに設けてある塀に閉ざされた自治区の者たちの仕業だと考えてよい」
「そうだね……。でも、でもだよ、デュバラさん。それがもし、デュバラさんの推測通りだったとしても、それでなんでこうなるの!? だって、同じ人間同士なんだよ? 同じ時を過ごした人間なんだよ? なのに、どうして……」
小紋は、もはや半狂乱とも言えるほどに取り乱していた。
「うむ。おそらくこれは、人の心の奥深くにひっそりと淀んで眠る選民意識というものを利用したのだろう。そして、この計画を目論んだ奴は、それを出汁にけし掛けたのだろう」
「選民意識? もしかしてそれって……」
「ああ、この手法は古来より、中枢から民衆を操る常套手段だ。選民思想は、強烈で閉鎖的な集団ナルシシズムをもって、相手をかくの如くそれ未満のものとして扱おうとする。それが、この紙切れに書かれた言葉の意味なのだ……」
言ってデュバラは、棒切れに張り付けられたものを隠し持っていたチャクラムで一刀のもとに薙ぎ払う。
「こんなことを仕掛ける相手って、きっと凄く手強いよ」
「ああ、何と言っても、なんの罪もない壁の中の人々に、ありもしない幻想を吹き込んで、それがさも現実の出来事であるかのように封じ込めてしまったのだからな」
無論、壁を隔てて閉ざされた村の人々とて被害者である。そしてさらに、彼らは〝正義〟の名のもとにこれらの残虐なる振る舞いを、自らの意思で求められるようになったのだ。村びとは、みな一丸となって閉ざされた塀の中の正義を実行せしめることとなったのだ。
「これはきっと来るよ。もっと大きな波が……」
「ああ、これはここだけで終わるはずがない。世界中が、この情報核融合炉施設の操り人形になってしまう前哨戦なのだ。エネルギーと情報という掛け替えのないものと引き換えに、な……」
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