驚天動地の呪い㊸

 

 小紋らは、名残惜しそうに手を振り続ける竜子の姿をただ見つめることしか出来なかった。

 途中、オツのラウンドビークルが夜半過ぎの元ビジネス街をまかり通ると、そこには毎夜に渡る恒例のレクリエーションが行われている。

「何とか、この流れを止めることって出来ないんですかね、デュバラさん……」

「ううむ……。それは難しいな。これまで三次元ネットワーク上に流布されている情報を分析しても、このウィルスには特効薬が存在しない。まして、その研究者たちでさえ何らかのウィルスの餌食にされているとも聞く」

「ううん。人間なら誰しもコンプレックスの一つや二つ持ち合わせているもんだと思うんだけどね。そういう僕だってそりゃあ、もうちょっとスタイルが良くって、クリスさんのようにセクシーで大人びてたら……なんて思うことあるもん」

 小紋は、そのちっこい体躯をお遊戯ダンスのようにくねらせ、口をへの字にして笑う。

「何を言う、小紋殿。そなたはそれでよいのだ。そなたは、その愛らしい溌溂とした姿があってこそ沢山の人々の庇護を受けている。そして、そなた自身も武術者としては表面的に恵まれぬ体躯のハンデがあってこそ、それをばねにして精進して来られたのではないか?」

 デュバラは、ウッドベースのように落ち着き払った低い声で続けた。

「確かに、生まれながらにして表面的な恩恵があるのはそれでよい。だが、そなたの師匠である羽間正太郎とて、この広い世界の中ではさほど恵まれた体躯を持ち合わせているわけではない。だが、彼は自分に備わった才能を開花させ、さらにそれを土台にしてあのような立ち位置まで上り詰めて来られたのだ」

「うん、絶対にそうだと思う」

「だがな、小紋殿。人間という生き物はどうあっても万能ではない。だからこそ、互いに互いの能力を尊重し合い事を成し遂げて行かねばならん。私は、そなたとそなたの師匠である羽間正太郎に備わっている〝三心映操の法術〟の能力に大いに嫉妬した。ゆえに、自ら融合種ハイブリッダーの道を選んでしまった。だが、今になってそれは我が弱き心と完璧主義が招いた焦燥であると後で気づいた。いや、さらに今となっては、その選択も間違いではなかったと思えるところもある。が、その焦燥こそが自らの弱き心が成せる選択であったと考えるのだ」


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