偽りのシステム210


「そ、そんなの……大きなお世話です!!」

 言って、アイシャは体勢を勢いよく反転させた。反転させた身体は凄まじい遠心力を伴い、鋭く尖った力を足先に伝えた。

「うおうっ……!!」

 アイシャのつま先が、イシュトール・イシュⅣ型の胸元を通り過ぎる。すると、コックピットのカバーがV字型の裂孔となって真っ二つの広がりを見せる。

「クッ、なかなか、やる……!!」

「あ、貴方が、フィヨードル上等兵……!?」

 アイシャは、そのコックピットの奥に鎮座する人物の姿を垣間見た。なんとその姿は、幾重にも絡みつくコードの中に埋もれたの肉塊そのものであった。

「あ、貴方の、その姿は、一体……!?」

「アンタ様のように、生まれながらにして恵まれた者に、あたしの気持ちなど理解できない」

 確かにその肉塊が、わずかながら人の形を形成していたことが窺える。しかし、これはもはや到底人間と呼べる代物ではない。

「でも、だからと言って、こんな……」

「どうせ糞に帰るなら、美しさなど本来は無用なもの。そうは思いませんか、お嬢さん。あたしはね、全ての美しさを否定したく、この身体を醜いものへと改造させてもらいやした」

「すべての美しさを否定……ですか!?」

「そうで御座いやす。全ての美しさは、あたしにとっちゃけがれみてえなものでごぜえやす。なぜなら、美しさは人の心を狂わすからです。ほれ、あたしが良い例でしょう。あたしは、他人の美しさに恋焦がれ過ぎて、その美しさに嫉妬するがあまり、沢山の美しい人、沢山の美しい心の持ち主たちをこの手に掛けて来たのでごぜえやす」

「な、なんですって!?」

「だから、この世に美しさはあってはならないのでごぜえやす。美しさは人の心を狂わせる悪いものなのでごぜえやす!!」

「そ、そんな……!?」


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