偽りのシステム179

 

「だったら、やるしかないでしょう? これこの通りあたしは、この世界に実体を持たない生命体なんだからさ。アイシャさん。あなたが今やるべきことは、まだ目覚めていないショウタロウ・ハザマの実体を守ることなのよ。今それが出来るのは、あなただけなんだから」

 エナは、どれだけ自分の心が歪んでいるかを改めて知った。言葉を紡ぐたびに、妙な嫌悪感が増す。だが、それが自然に出て来てしまうものだから、どうにも止められない。

 アイシャは、巨躯をくねくねさせながら戸惑っていた。おろおろするにも、慣れない身体にまだ戸惑いがあるようで、エナに言われたビームとやらの武器が腕の中に備わっているのか、半ば確認するように手のひらを何度も何度もひっくり返しおっくり返しを繰り返している。

 そんな彼女を見て、エナは少し気の毒に感じた。自分がアイシャに課したことは、かなり理不尽な内容だからである。

 だが、この厳しい世界で生きてゆくために、自身も幼少のころから〝戦略家〟などという汚れ役を買って生き延びてきたのだ。それに自身はまだ年端も成熟し切れていない少女の姿のままである。

 そんなエナにとって、アイシャという存在は、とてもきらびやかで恵まれ過ぎた存在でしかなかった。自身がどんなに天才少女ともてはやされて来たとしても、実際には通常の同年代の女の子より激しい生き様でしかないのだ。それはもはや、時流というものに飲み込まれた操り人形でしかなかったのだ。

「ほら、これを見てよ、アイシャさん」

 エナはそう言って、目の前の空間にホログラム映像を投影させた。「ね? 来てるでしょ。例の厄介な人たちが」

「え、ええ……」

 アイシャは、未だ戸惑いを隠せない仕草を見せながら、その映像にチラリ目をやる。

「この人たちはね。過去の戦乱で、ショウタロウ・ハザマに因縁を抱いてしまった人たちなのよ。第十八特殊任務大隊と言ってね。半分以上を機械部品に換えてしまった狂人たちなの」



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