偽りのシステム134


 フィレル准尉の通信はぷつりと途絶えた。この場所は、味方の三次元ネットワーク通信が繋がりにくい場所である。それだけに、音声だけの不明瞭な通信は、彼女にいっそうの不安を掻き立てる。

(そんな、こんな時に限って、凶獣たちが暴れ回って……)

 脳内のエリアモニターには、先行した部隊のシグナルは一つも残っていない。

 フィレル准尉のあの様子では、さすがに彼らの生存は期待できないであろう。凶獣たちも日々進化している。ヴェルデムンドアーチというただでさえ特殊な場所であればあるほど、彼女らの予測の付かない何かが起きる可能性が高いのだ。

(こ、これでは犬死にです……。フィレル准尉たちは私の独断が殺してしまったようなものです……)

 何も成し遂げることが出来ず、ただ無駄に命を落とさせてしまったことに、彼女は後悔の念を抱かざるを得ない。

 そしてたったこの瞬間も、エスタロッサ中尉とシャザ―准尉は、に命を狙われ続けている。

「確認です、シャザ―准尉。敵の居所は掴めましたか? 聞いての通り、先行部隊は不測の事態により全滅してしまいました。残ったのは私たちだけです」

「は、はい、エスタロッサ中尉殿、聞こえております。大変なことになってしまいました。しかし、残念ながら敵の居所は未だ全くもって捉えられておりません。一体、どういうことなのでしょうか?」

「敵は……ヴェルデムンドの背骨折りは、先ほども言いました通り、熱感知が出来ない装備で身を潜めているはずです。熱も光も、そして火薬のような化学反応ですら起こさないように武器の選択も怠ってはおりません。だけど、逆に私たちは……」

 彼女が、そう言いかけた瞬間である。

「う、うわ……ちゅ、中尉殿、うわあぁぁぁっ!!」

 彼女の脳内に、断末魔にむせぶ悲鳴が響き渡る。

「シャ、シャザ―准尉!! シャザ―准尉、どうしました!? シャザ―准尉!!」

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