偽りのシステム⑮


「この俺がバグ? つまり、システムにとって俺ァ〝不具合〟ってことか?」

 正太郎は振り返り、エナの顔を見やる。

「あら、今頃気づいたの? だからグリゴリはあなたを執拗に追い掛けるのよ。だって、別次元の宇宙には、あなたの存在は居ないんだもの」

「な、なんだよそれ!? 別次元の宇宙? そんなものあるなんて聞いてねえぞ! それに、他の次元にこの俺が存在してねえって。それじゃまるで……」

「そうよ、だから不具合バグなのよ。システムに都合良く運営されるためのあたしたちの生まれた地球があった。なのに、あなたという存在が何故か生み出されてしまった。これは、システムにとって決定的な欠陥であって、重大なミスだったの。そう、あなたの言う計り知れない知能を持ったシステムですら予測できなかった計算ミスなの」

「俺の存在が、計算ミス……ってか」

「そうよ。そんなあなたが、あたしたちの生まれた地球に存在することによって、沢山の人たちに影響を与えたわ。もちろん、移住先のこの世界でもね。あなたのお師匠さんのゲネック・アルサンダールや、ダイゼン・ナルコザワ。その娘のコモン・ナルコザワ。それに、お師匠さんの娘さんだって、あなたが存在しなければ、あんな死に方をすることはなかった」

「ゲネックのおやっさんの娘……アイシャのことか」

 正太郎は苦虫を噛み潰したような表情でエナを見つめる。

 エナは、そんな彼の気持ちを察してか、

「そう悔やまないで。あたしがシステムのアーカイブを見て来た限り、別次元のアイシャさんは、どの世界でも短命に終わっている。第十五寄留の悲惨な大事故によってね」

「そ、そんな馬鹿な……」

「あの方は、同じ女のあたしから見ても、とても品があって魅力的な人だったわ。もう、これでもかって嫉妬するぐらいね。でもね、ショウタロウ・ハザマ。あなたが知っているアイシャさんは、とても幸せだったと思うの。だって、あなたという人に出会えて、一瞬でも心を通わせることが出来たんだもの……」






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