浮遊戦艦の中で311



 リゲルデは、ジェリーの手招きに促されるまま、その後を付いて行くしかなかった。

 無論、ジェリー・アトキンスの言ったことを全て信じ切れるものではない。しかし、いくら真っ暗闇出ないにしろ、このような視覚と実際の経路とがかけ離れた場所に一人取り残されては、全てが八方塞がりになってしまう。

「ジェリー・アトキンス。貴様……貴様は、この俺と中に戻って何をしようと言うのだ? 戻ることによって、貴様に何のメリットがあるというのだ?」

 言われてジェリーはその場に立ち止まり、静かに目を見開いてこう言った。

「ミスターワイズマン。先ほども申しました通り、わたしはこの世界では、この中の以外のことを良く知りません。そんなわたしが一歩でも外に出てしまえば、そこは地獄やもしれません」

「では、貴様は俺を利用しようと?」

「まあ、そう取られてしまうのも仕方りませんが、そういうあなたも今現在、わたしのことを自分の目的の為に利用していることになります。ですが、わたしはそれでも構いません。それがわたしの今後のメリットになるならば……」

 リゲルデにとって、ジェリーへの質問は軽いコミュニケーションのつもりだった。しかし、リゲルデ本人が無意識におびえていたこともある。常軌を逸したこの状況に。そして、ジェリーの常人離れした感覚に。

「す、すまん、今言ったことは気にせんでくれ。この俺の本心ではない」

「いえ、分かっています。もし、この逆で、わたしがあなたの立場だったなら、きっと同じ心境になるでしょう」

 ジェリーはそういって笑みを浮かべ、何事もなかったかのように歩みを先に進めた。

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