浮遊戦艦の中で280


 凶獣のリゲルデは、白蓮改の目前に立ちはだかった。彼は、汚泥の中へと突っ込んだふりをしただけだったのだ。

 両腕を羽交い絞めにされた白蓮改に、身動き一つ出来得るすべはない。

 謎の機体は、腕の両端から黒光りしたかぎ爪を出した。海底でも使用可能な超振動を起こす近接戦闘用の武器である。 

 さすがにリゲルデは覚悟した。両腕を羽交い絞めにされたこの距離でこれを使用されれば、どんなに抵抗しようとも白蓮改のコックピットは串刺しである。

(万事休す、か……!?)

 リゲルデが奥歯を噛み締め、死の瞬間を感じた、その時である――

「搭乗者ノ生命危機ヲ察知……。対A級警戒防御システムヲ作動シマス……」

 いきなりコックピット内に機械音声が木霊した。そして、今までうんともすんとも言わなかったサポート人工知能の計器類に火がともった。

「な、何だ!? 何だこれは!?」

 リゲルデが目を見開いて辺りを窺ったと同時に、コックピット内に泡状に数え切れぬほどの気泡を含んだどろどろとした液体がその中を席巻した。

「うわっ! これは何かの冗談か!? や、やめろ!! やめろー!!」

 彼は両腕を振り回し、液体の浸漬を防ごうとするがそれは最早遅し。見る見る間にその液体はリゲルデの身体を飲み込み、そして熔解させてしまう。

 そんなことが起きていることもつゆ知らず、謎の機体は黒いかぎ爪を白蓮改の胸元に突き刺すと、

「悪は滅されるべし!!」

 とばかりに、凄まじいほどの超振動で背中まで貫通させたのである。

『見事だ!! 正しき人間の姿のお前よ!!』

 その雄姿に傷ついた羽根を押し広げ、凶獣のリゲルデも感嘆した。

「ついにやった。ついにやったのだ! これで我らの世界に平穏が訪れる……」

 謎の機体を駆るリゲルデが、感慨深く突き刺したかぎ爪の先をモニター越しに見つめていた時――。

「な、何だこれは!?」




 

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