浮遊戦艦の中で240


「な、なんと? この私めも虹色の人類イリダーストメンですと!?」

 剣崎は、何とも言えぬ表情でため息をつき、こう答えた。

「ペルゼデールという人物は、なんとも巧妙な奴だ。お前らが一筋縄の繋がりを見せなければ、普通は互いにそうではないと考えてしまうところであろう。だが、事実はそうではない。相互の認識すら誤魔化せられれば、それは事実と認定させることも出来る。つまり、互いが仲間でないという認識。そして互いが真実であると認識してさえいれば、それは事実でなくとも事実であるとの錯覚を起こしてしまう。それがお前たちの現状なのだ」

 言って剣崎は、またもやレーザーソードでアロンソ上級曹長の腕を薙ぎ払うと、その腕の傷口からは虹色に輝く液体がどろりと漏れて来た。

「なんとも哀れな話だ。逆にお前らは、自分たちが虹色の人類であるという自覚が無い。きっとお前らは、それそういう風に元の記憶を消され、そして自分たちが互いにそういう立場であると、都合の良い洗脳を受けたのであろう。まあ、五次元人たるお前たちの特質など、この俺たちの知る由もないがな……」

 フーリンシアの姿をした虹色の人類も、そしてアロンソ上級曹長の姿をした虹色の人類も、あんぐりと口を開けたまま何も言葉を発せない。まさか、自分たちが彼らの記憶を基にした人物でないなどと考えてみ見なかったからだ。

「そのペルゼデールという奴。どこまでなりふり構わん奴なのだ。まるで人……いや、自分以外の相手を道具としか思っておらん。そうでなくば、いくら何でもそこまでのことをせんだろうからな」

 剣崎が言ってニヤリと笑みを浮かべた時、諜報部のエージェントと憲兵らがこの場に駆け付け、そして二人を連行した。

 彼らは抵抗する気力も失せた様子で、憲兵に両腕を取り押さえられたまま部屋を出て行く。

 その時、フーリンシア大尉の姿をした虹色の人類は、まだ信じられぬと言った表情を浮かべながら、剣崎に悲しそうな視線を送る。

「ふうむ。その愛は、どこまで本物なのやら、俺にはまだ理解出来ん……」

 剣崎は複雑な心境で彼女らを見送った。


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