浮遊戦艦の中で218



 剣崎の予測を超えて、凶獣たちはすぐには来なかった。

 嵐のような第一波の攻撃が止むと、大森林は予期せぬ静寂に包まれた。

「な、何だというのだ!? まさか、これで終わりというわけではあるまい……」

 シン……と静まり返った漆黒の闇の向こう側には、どれだけの数の凶獣らがいることだろう。それを思うと、この静寂がかえって不気味で仕方がない。

(むう……これも奴らの狙いだとでも言うのか? まるで予測の付かぬ敵の数。まるで予測の付かぬ攻撃の意図。まるで予測の付かぬ奴らの進化の具合……。どれを取っても五里霧中の手探り状態だ。落ち着け。今、この俺が狼狽うろたえれば、味方の兵が動揺する。考えるのだ。もし、この俺が奴らのブレインであったなら、次はどう出る……?)

 敵の数すら分からないこの状況で、果たしてその先々を読んでも徒労に終わるやもしれない。だが、敵の狙いが〝進化した人工知能〟である以上、終着点は読み易いのかもしれない。

「ミコナス准尉! どうやら凶獣たちは心理戦に移行したようだ。これは手強いぞ。俺たちはとうとう野蛮極まりなかったあいつらと激しい根比べする時代になったのだ。さあ、今の俺の言葉を全部隊にそのままそっくり伝えるのだ。これから、どちらの生物がこの世界の頂点に立つのか雌雄を決する時が来たのだとな。俺たちは今、その檜舞台のまん真ん中に立っているんのだとな!」

「は、はい。了解しました。今の大佐のお言葉を全部隊にそのままそっくり通達します!」

 言うや、ミコナス准尉はまるでテープレコーダーを巻き戻したかのように、剣崎の言葉を無線で通達した。 

 それを聞いた全ての兵たちは一様に黙り込み、そして一様に奥歯を噛み締めた。

 彼らは漆黒の闇にむせぶヴェロニアス密林の向こう側に熱い視線を送る。

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